優しい魔女に会った夏

白咲夢彩

プロローグ

「遅刻だ!ママ、遅刻!」




 大きく高い叫び声が、私の耳へと飛び込んだ。まだ夢の中で遊んでいたいというのに。




 って、今、何て言った?遅刻?




「はッやばい!急がなきゃ!」




 私は夢と現実の境目から、現実へと一気に突き抜ける。バサッと布団を投げ捨てて、息子の顔を確認し、壁に掛けられた時計を見た。




「ママ、新幹線間に合う?」


「やばい、行けるか。いや、まだ行ける!」


「ママ、急げ急げ」




 やってしまった。今日は七時に起きて、東京駅に向かうと、一週間前から息子に口酸っぱく言っていたというのに。私としたことが、現在朝八時半。大遅刻である。


 でも、まだ間に合う。新幹線は九時五十分発。元々、余裕を持った早めの時間設定だったからか、飯抜き、メイク抜きで向かえば行けそうだ。息子は先に起きたのか、準備万端が整った恰好でいるし、昨日、荷物は既に全て玄関にまとめてある。多分、多分だが問題はない。




 私はキラキラとした目で心配をする息子に見つめられながら、超絶ダッシュで着替え、最高記録の速さで出発をした。




「あ、うみ。忘れ物、ない?」


「ないよお」




 道中で、突然思い出した確認事項を、息子に伝える。




 出る前の忘れ物チェックが出来なかった為、必要なものが無ければ、もう、あっちで買うしかない。まあ、小学二年生の息子は割としっかりとしているので、大丈夫だろう。私の方が、心配なわけで。




 まあ、今はそれよりとにかく急ぐしかない。




 だって、これから、〝秘密の村〟に帰るのだから。


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