第85話 巨大ランプの修理
あ。
「これもう満タンなんだ」
簡単な話だった。
魔力がいくらたまっているのかは私には見えないけど、充填できないって事は、そういう事だ。
なら、あと魔石が使われるとしたら修理だけ。
それで何も起こらないんだから、修理に失敗してるんだ。
魔力不足と素材不足、どっちの理由もあり得る。
私は、魔石の入っていた棚の方を見た。
必要な素材がわからないから、素材が不足しているならどうしようもないけど、もし魔石の魔力不足が原因なら、大きな魔石を使うだけで解決する。
ううん、駄目駄目。
あれはミカエルさんのなんだから、勝手に使うなんて駄目だ。
でも……ここは私の工房だとも言ってたよね? ということは、私の物でもある?
いやいや、そんなわけない。
ああ、でも、試してみたい。ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから……。
私はふらふらと吸い寄せられるように、魔石がしまってある棚の前まで歩いて行った。
大きな魔石の入った引き出しを開ける。
そっと魔石に手を伸ばし――。
いや駄目でしょ。
――我に返った。
私は魔石には手を出さずに引き出しを閉めた。
後ろ髪を引かれる思いだったけど、頭を振ってその考えを押しやる。
質で挑めないなら量でいこう。
大きな魔石じゃないとできないのかもまだ分かってないんだから。
今度は、
これなら、後でギルドに代金を払えば大丈夫だ。
何個にしようか一瞬迷った後、思い切って木箱の中身の約二〇個を全部買い取ることにした。
突然の出費にしては痛すぎるけど、この好奇心には
魔石を木箱ごと運んで、ランプの魔導具の横に置く。
あ、でも私、複数の魔石を同時に使うのってやった事ない。
ていうか、そういう使い方ってできるのかな? 魔力の
まあいいか。とにかくやってみよう。
私は魔石をテーブルの上に四個出して、計五個になった魔石の上に右の手の平を乗せ、左手をさっきと同じように、魔導具に添えた。
「修理~修理~」
目を閉じて、ぶつぶつと念じながら、魔力が魔石から魔導具に移る様子を想像して、私の体からも魔導具に魔力を入れていくように意識する。
しばらくそうしたあと、ゆっくりと目を開けて魔石を見たけど、どの魔石の魔力もなくなっていなかった。
「だめかぁ」
まだ魔石が足りないのかな。それともぶつけてないからかな。
魔石をたくさん持つのは無理だから、今できるのは、数を増やすことだけだ。
私は魔石を一〇個並べて、その上に腕を乗せた。とにかく触っているのが大事だと思ったからだ。なんとなくだけど。
目をつぶる意味はないことに気づいて、今度は魔導具を凝視したままやる。
「修理~修理~修理~」
しかし何も起きない。
「私、修理ってどうやってやってた? っていうか、私、本当に修理できるんだよね?」
まだ修理にも慣れてないから、よくわからなくなってきた。
目の前に自分のランプの魔導具があるのに気づき、それを修理してみることにする。
魔導具を左手に、魔石を右手に持つ。
修理、修理、と念じながら、二つを近づけていって――こつん。
「あ、できた」
ずしっと魔導具の重さが増して、修理の成功を知る。
普通の大きさのランプの魔導具なら修理できるみたい。
「魔石の数が足りないのかなぁ」
大きさの比から言えば、魔石一〇個じゃ全然足りない。
でもこれ以上は触れているのも限界だ。脚も使えばいいの?
ワンピースの
無理。
作業部屋の扉は開けたままで、誰がいつのぞいて来るかわからない。そんな姿は見られたくない。
諦めてミカエルさんを待とう。それで大きな魔石を使ってみてもいいか聞くんだ。
そう思って魔石を木箱の中へと戻している時、ピンときた。
箱ごと性質変化ができるんだから、箱ごと魔石を使うこともできるんじゃない?
普通に考えて、
木箱の中に右手を入れて、魔石の一つに触れる。左手は大きな魔導具へ。
さっき普通の魔導具の修理に成功した時と全く同じになるように、修理、修理、と念じてみる。
すると、ふっと自分の左手から何かが抜けて、左腕が軽くなったような感じがした。
直後、ずんっ、と体全体を何かに強く押さえつけられているような衝撃に襲われた。急に重力が何倍にもなったような感覚だ。
なに……これ……。
そのまま重力に引かれるように、私は椅子から転げ落ちた。
椅子が倒れる音の後、ごんっと木の床に頭をぶつける。
続いて太ももの上に何かが刺さった。痛い。
がらがらと魔石が床に落ちる音がしたから、たぶん木箱が落ちてきて角がぶつかったんだ。手で引っかけてしまったんだろう。
ころころと目の前に魔石が転がってくる。乱れた髪の隙間から見えた魔石には、もう光は宿っていなかった。
魔石の魔力なくなってる……。
そう思ったのを最後に、私は意識を手放した。
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