第46話 不発弾の充填

 思いついたら即、検証。


 といきたい所だったけど、家には投擲とうてき弾はない。使わないし。


 もしあったとしても、私の持っている投擲弾ならそれは絶対「当たり」だから、どのみち不発弾のある冒険者ギルドに行かないと検証はできない。


 次の日の朝、私はわくわくしながら冒険者ギルドに向かった。休日が明けるのが楽しみだなんて、小学生以来だ。


 一晩明けて、少し冷静にもなっていた。


 魔力を充填じゅうてんしてみるなんて、誰でも考えそうなことだ。今までに色んな人が思いついて、やってみたんだろう。で、失敗だった。


 だけど、万が一ってこともある。


 投擲とうてき弾には一定の確率で不良品ハズレがある、っていう常識を刷り込まれてきていない私だからこそ、思いついたことなのかもしれない。


 ギルドの二階に上がって、作業部屋で一人になった私は、さっそく試してみることにした。


 仕事を先にやって、お昼休みにでも試すのが正しいのかもしれないけど、気がそぞろなまま作業するのはよくない。選別を間違えたら大変だ。


 第一段階だけやって、部屋の中央の床に座った自分の周りに木箱を並べる。


 選別前の箱からハズレを一つ取り出す。


 お馴染なじみの閃光せんこう弾だ。検証の時は危なくない閃光弾に限る。


 まずはじっくりと観察。


 うん。不発弾だ。間違いなく不発弾。


 見た目は他のと変わらない。でも、私の第六感的なものがそう言っている。


 投げてみれば確実だけど、使い捨てだからそういうわけにもいかない。


 その閃光弾を左手に持ち、右手でワンピースのポケットの中の魔石を取り出す。


 どきどき。


 じゅうてん、と念じながら、両手をゆっくりと近づけていく。


「……」


 何も起きない。


 閃光弾は変わらずハズレだったし、魔石の赤い光もそのままの強さで鼓動こどうのように点滅している。


 いやいや。もう一回やってみよう。


 二つを離し、もう一度近づけていく。 


「……」


 だけど、やっぱり何も起きない。


 念じ方が足りないのかな。


「充~填~」


「充填!」


「充っ填っ!」


 最後の方は立ち上がり、変身ヒーローばりに叫んでみたけど、それでも何も起こらなかった。


「だめかぁ……」


 ぺたりとその場に座り込む。


 うーん。


 私は両手の投擲弾と魔石を眺めた。


 不発弾のままなのは間違いない。この私の感覚を疑ったら、これまでのことが全部崩れてしまう。


 あ。


 魔力の充填率が見える人もいるんだよね?


 てことは、もし不発なのが魔力不足のせいだったんなら、その人たちがとっくにそう言ってるはずじゃん?


「あー……」


 なんで先に気づかなかったんだろ。


 そんなわけないと思ってたけど、もしかしたらという気持ちがあったものだから、なんだかすごくがっかりしてしまった。


 気分的にはごろりと転がってしまいたい。でもここは仕事場だ。それに土足の場所で寝転がるなんて汚すぎる。


 がっくりと肩を落として天井をあおぐだけにとどめておく。


 ていうか、魔力の充填で不発弾が当たりになったとして、それって嬉しい? 魔石の方が値段が高いんだよ? 費用対効果コスパ悪すぎない?


 うんうん。そうだそうだ。嬉しくないよね、別に。


 期待に膨らんだ胸がぺしゃんこになってしまったので、思考を損得勘定に変換して無理やり自分を納得させようとした。


 それでもがっかりした気持ちは収まらなくて。


「こうさ、ゲームならさ、合成とかさ……」


 ぶつぶつと言いながら、閃光弾と魔石を、ごつんとぶつけ合わせた時――。


「あれっ?」


 閃光弾の感じ・・が変わった。


 思わず二度見する。


「これ、ハズレじゃない……?」


 私のかんが外れたの!?


 びっくりしていると、今度は右手に持っていた魔石の明滅がふっと消えた。


 え? どゆこと?


「……」


 たっぷり三秒間固まったあと、私の口元はじわじわと緩んでいった。


 今、魔力が移ったんだよね!?


 魔石の光が消えたのは魔力が抜けたからで、それは魔石を使ったからで、つまり魔石の魔力が閃光弾に充填されたってことだよね!?


 で、さっきまで不発弾ハズレだったはずの閃光弾が当たりになってるってことは、つまり、魔力を充填すれば不発ハズレじゃなくなるってことだよね!?


 投擲弾の不発は魔力不足のせいだったんだ!


 やっ――。


「やったー!!」


 思いっきり両手を挙げて声を上げる。


 おっと。


 勢い余って手の中の閃光弾と魔石を放り投げちゃう所だった。


 いやいや喜ぶのはまだ早いぞ。


 ちゃんと確かめなきゃ。この閃光弾が「当たり」なのかを。


 確かめる方法は一つだけ。この閃光弾を――投げるっ!  

 

 私はスイッチを入れて、閃光弾を壁に向かって投げた。もちろんこの分は申告して、ちゃんと支払うつもりだ。


 コツン。


 カッ――。


 壁に当たった閃光弾は、見事に光った。


「わっ」


 期待しすぎてしっかりと見つめていた私は、強い光をばっちりとらってしまった。


「ふふふ……ふふっ……ふふふっ」


 目を押さえながら、私は笑っていた。


 やった!


 今度こそ、常識を打ち破ってやった!


 投擲弾の不発弾は不良品なんじゃない。魔力が足りないだけ。充填すれば当たりになる。

 

 これで誰も不発ハズレに悩まされることはない。取りあえず全部充填しちゃえばいいんだから。


 ……あれ、ちょっと待って。


 それって選別がいらなくなるってこと?


 じゃあ、私の仕事は……?

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