第8話 さあ、仕切り直そう!
「あっちゃー……」
気が付いた時には、すでにあの真っ白な空間に戻ってきていた。清潔を通り越して、殺風景な純白に包まれている。
そこでかけられる声も同じ、鈴の音すら霞みそうな綺麗な女の子の声だ。その声を持つ女の子は額に手を当て、天を仰ぐように……要するに『うわっちゃー』という反応を見せている。
「うーん、おかしいね。どうしたもんだろう?」
金糸の長髪にゴスロリ服、嫌味すら失せるほどに整った顔立ちの幼女ヴェルトラムも同じ……いや、さっきと決定的に違う部分がある。
「じゃあまず、今度はどうなったか教えてくれないかな?」
食ってたものがポテチじゃなくてケーキと紅茶になっていた。ご丁寧に豪華なテーブルとイス、ティーセットも完備している。
優雅なティーテイムを満喫しやがって! 英国淑女かお前は!
どっから持ってきたんだそんなもん! こっちはまた理不尽に晒されたってのに、テメェは呑気にティータイムかよ!
不満はいくらでもあるが、ここでそれのままに当たり散らしても仕方ない。それにこちとら30歳、こんな子供にすぐに感情的になるのは大人失格だろう。
「……ドラゴンだよ」
「うん?」
「赤いドラゴンに出くわして、『隠密』で逃げようとしたら、あたり一帯ごと焼かれたんだよ」
それを聞いたヴェルトラムが即座に顔を背け「ぶっ……くっく……」と、吹き出すのを堪え始めた。隠せてないってか、頬が赤くなってんじゃねえか。
「テメェ……」
何笑ってやがんだ、こいつ!
お前の転送のせいでこんな目に合ってんだぞ? わかってんのかオイ!
「だっさ……いや、悪かったよ、うん」
そう言って、持っていたティーカップから紅茶を一口……これまた優雅な動作でカップを置くと一息ついた。
のんびりティータイムを堪能してんじゃねえよ! つか最初の言葉、聞こえてんだからな!
マジで、ふざけんなよテメェ! 半分は俺の不幸かもしれないが、もう半分はお前のせいって言われてもおかしくないんだからな?
「その、運がなかったねぇ。いくら隠れようと、周囲ごとやられたらどうしようもないのさ」
「でしょうね! 俺ここに帰ってきちゃってるし!」
「まあまあ、チャンスは無限さ。もう一つスキルも上げるから」
また? 俺が言うのもなんだが……こんなにホイホイと『特別』を与えていいのか?
「おや? 嫌かい? それならそれでいいさ。そのまんま……」
「いやいや、欲しい! くれ!」
こちとら13年間、現実で最底辺の生活を送ってきたのだ。貰えるものは、病気と怪我と借金以外なら何でも貰うと心に決めている!
それが便利で強力な、特別なスキルとなれば尚更だ。
「うんうん、私もそう言ってもらえて嬉しいよ。あげるスキルは『鋼体化』。自分の肉体を一定時間、ほぼ無敵状態にするんだ」
某有名大作RPGの『ア〇トロン』とか『イン〇ンシブル』みたいなものか? 全ての攻撃をカットする代わりに動けない。またはほとんどの攻撃を大幅に減退するってことか?
……だとしたら、これも『特別』の名に恥じない凄まじい能力だ。
「そうそう。物理だけじゃなくて火や水、あらゆる攻撃をカット出来るんだよ。ただし一部の行動に制限がかかるし、即死系には無力だから注意してね?」
一部の行動……移動や攻撃、またはいわゆる『魔法』とかか? わざわざ『ほぼ』無敵と言ったあたりから、そのあたりも探っていく必要がありそうだが……
「うーん、このスキルじゃ不満かい?」
「有難く貰う。じゃあ、送ってもらっていいか?」
役に立つことに違いはない。しかもすでに持っている『隠密』と合わせれば、生存の力はピカ一になる。攻撃やらは『英雄の器』でレベルを上げてからでもいいだろう。
何より……あまりにも何でも出来る圧倒的な物を貰うと、ゲーム自体が詰まらなくなってしまう恐れもある。貰えるものは貰うが、せっかく命を賭してまで『デイブレイク・ゲート』を楽しむのだ。
折角なら十全にエンジョイしたい。
「気に入ってくれて何よりだよ」
もはや心を読まれるのも慣れてしまった。おかしなことは考えていないし、まあいいや。
「はい、いってらっしゃーい」
そして、再び漆黒に閉ざされる。
また闇が、波打った気がした。
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