One day Night Fever

 周回遅れとなった珍走族を、高笑いの『赤き豹』が――井筒いづつが追い抜いていく!

 嗚呼、次章予告をなぞるかのように竹槍出っ歯がッ! そしてロケットカウルの三段シートもッ! 次々に爆発四散ッ!

 ド派手な事故に巻き込まれぬよう回避しつつ、必死で井筒いづつを追う。

 突然、吐き気にも似た強力な嫌悪感が襲ってくる。これは……人払いの結界!?

 前回と同じく、おそらくラスボス先輩の――『教会』とやらの仕業だろう。

 見れば路側帯へ車やバイクを停め捨て、この場から一目散に逃げ出す奴もいる。俺は我慢できなくもないけど、よくよく考えたら凄い魔術?だ。

 あとかしら堅固けんごが、そうやって乗り捨てられたバイクへ群がっていたけど……現地調達だったのか、あいつらの単車あしは!?

 専用品を獲得するコミュ・イベントがあったはずだぞ、確か!? ずるチートすんな!

 ただ、こちらとしても好都合な展開といえた。

 これなら無関係な一般人が排除されるし、なによりかしら達の参加は不可欠だ。

 それより――

堕権飛威ダゴンピーの”祭り”だぞ、てめぇッ!!」

 と見境なく絡んできた珍走族の方が厄介だった!

 完全にテンパっちゃってるのか目は逝っちゃってるし、口の端からは泡を吹いてるし……もしかして桜先輩のいってた『狂化』って、これか!?

 身体中から噴き出てる霊気オーラだって、もはや異能現象レベルだし!?

「待ってたぜェ!! この”瞬間とき”をよぉ!!」

「お前らとは初対面だろうがぁッ!」

 駄目だ。狂化してるせいか、道理が通じそうにない。……いや、元々か?

「喧嘩上等、バリバリだぁ! 特攻ぶっこんでやる、!」

「いあ! いあ! だごん ふたぐん!」

 そして問答無用とばかりに、各々が持つ凶器をも繰り出し始める!

「どうしてお前らは、すぐにバス停を持ち出すんだ! そんなもので殴ったら死ぬだろ!? 学校で習わなかったのかよ!」

「”ダンす”らせてやるぜ、”不運ハードラック"となぁッ!」

 思っていたよりもタイヤの狙い撃ちは、難しくなかった。互いが並走していたからだろう、たぶん。

「ちょっ!? 何してんですか、しずくさん!」

無線耳元で大声だすんじゃねえ! それに何をって……邪魔者を排除しただけだ」

「だ、だけって! 不良さんのバイク、爆発しちゃいましたよ!? それも他の不良さんを巻き込んで!」

「おお? それなら巻き込みコンボボーナスも貰えそうだな」

 菜子なのこは絶句してしまったけれど……事故のダメージ程度なら、狂化のオーラに守られるだろう。死にはすまい。

「それより! ハーレーの写真! それに番号は? 控えられたか?」

「ちゃんと撮りましたよ! でも、見慣れない青いプレートで――」

「……外交官ナンバーだな、そりゃ。まだ居るのか? いま、どの辺を走ってる?」

「すいません、いまは監視範囲外へ――」

「気にするな。そもそも環状高速を独りで監視なんて無理だ。お前はやれてるよ。

 こちらは『ヒーロー』二名のエントリーを確認。他に何もないなら予定通りだ」

 応答しながらも疎らとなった環状高速を急ぐ。

 ……見つけた。

 遠くに周回遅れとなった桜先輩の商用車バンと、それを追い抜かんとする『赤き豹』が――井筒いづつが視界へ入る!

 どうやら再び追い抜かれるまでを、好機と捉えたらしい。……桜先輩は、かなりの自信家か。

「この周回でポイントBへ侵入する。もう俺は範囲外か?」

「ですね。見えなくなってしまいました。私は先に監視ポイントBへ移動します。

 ……その……えっと……お気をつけて、しずくさん」

 餌付けしていた野良猫が、やっと懐きかけた喜びと……それを裏切らねばならない心苦しさがあった。

 なぜなら今から俺は、菜子なのこにも秘密のミッション――『ラスボス先輩vs赤き豹』へ武力介入しなければならない。

 ……知れば酷く怒るだろうな、きっと。

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