第86話『私が居なくても 3』

 ダンスレッスン中、梅香ちゃんが突然倒れた。


メルシー「……梅香ちゃん……」


ダンス講師「梅香!救急車呼んだからね、もう少し頑張るんだよ……!」


梅香「……ん……」


涼寧「あっ、梅香……!」


梅香ちゃんが微かに目を開ける。


梅香「……す……ちゃん……める……ちゃん?」


メルシー「あっ」


ダンス講師「梅香。聞こえる?」


弱々しく頷く梅香ちゃん。


梅香「……は……くるしい……」


胸が張り裂けそうになった。少し疲れているようには見えたけど、無理をしているように見えなかった。私たちにバレないように、無理してたのかな。迷惑かけないようにって、たくさん、我慢させたのかな。唇を噛み、零れそうになる涙を留める。


涼寧「……」


梅香「めるちゃん……」


梅香ちゃんが、私の手を握った。


梅香「すずちゃんも……来て……?」


涼寧ちゃんが寄ると、梅香ちゃんは反対の手で涼寧ちゃんの手も握った。


梅香「……今ね……はぁ……なんにも、みえないの……ゲホッゲホッ……はぁ……楽しかった……くるしいやぁ……ゲホッ……もっと……ふたりとアイドルしたいけど……もしね……神様が……ダメって言ったら……マリメロのこと……守ってね……わたしが、居なくても……ふたりで、やるんだよ……?」


涼寧「そんなの……」


梅香「自分のことは……自分が一番……よくわかってるもん……ゲホッゲホッ……はぁ……そろそろ……崩れるかもって……思ってたもん……ゲホッゲホッゲホッ……はぁ……はぁ……うめか……もう……」


梅香ちゃんが目を閉じた。


メルシー「梅香、ちゃん……?」


梅香ちゃんの瞳から涙がつーっと溢れる。涼寧ちゃんは目を見開いて、こぶしを握りしめて、震えた。私はそんな涼寧ちゃんの手を握り、震えていた。しばらくして、救急車がやって来て、梅香ちゃんは運ばれて行った。私と涼寧ちゃんは、先生に連れられて、先生の車で病院に着いて行った。病院で梅香ちゃんの治療が終わるのを待っていると、マネージャーさんも来てくれた。梅香ちゃんのお母さんも来た。マネージャーさんが来たら、先生は帰った。みんな、何も言わない。考えないよう、脳みそに蓋をした。梅香ちゃんがマリメロから居なくなるとか、この世界から居なくなるとか、考えると、怖くてたまらなくなりそうだから。涼寧ちゃんはずっと私の服を握っていた。ふと、マネージャーさんの電話が鳴った。マネージャーさんは電話の相手と少し話したあと、梅香ちゃんのお母さんに何か言って、去って行った。十数分後、戻ってきたマネージャーさんの後ろには、#陽菜子__ひなこ__#ちゃんがいた。陽菜子ちゃんは私たちの前に来て、私たちを睨みつけた。


陽菜子「……なんで……なんで無理させたんですか……!」

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