第56話『追懐 9』

 校長室。を渡すと、千翼ちひろ先輩はそれを机の上に置いた。

「まずはこれを聞いてください。」


獅子しし、荷物。

はい、おい、持てって!

うわ、汗だくじゃん、汚いんだけど。

臭い臭い!

罰として今日のお昼は奢りね~

今日の帰りさぁ、アイス食べたくない?

分かる~、獅子が奢ってくれるしね。

ね、てか、宿題やってきてくれたわけ?

4人分とか大変でしたね~?何時間かかったんだろ!

あはははは!


息が上手く出来なくて、千翼先輩の制服を握りしめた。千翼先輩は私の手を握ってくれた。

「次に、これを見てください。」

先輩が、彼女たちがスマホの持ち主に向かって軽い暴力を奮っているところがおさめられた動画を校長先生に見せる。校長先生は厳しい表情だ。動画が終わると、先輩は校長先生をじっと見つめた。

「……これが、この学校で起こっている、この子が実際に体験していることです。」

「……」

校長先生は顔を真っ赤にして震え出した。こんな音声や動画、学校の永遠の汚点だ。私たちは今から、証拠隠蔽いんぺいのために消されるんだ。

「申し訳なかった……!」

校長先生は突然そう言って、私に頭を下げた。

「気が付けなかった、何も出来なかった教師の代表として、謝罪したい……」

「えっ……」

「……このレコーダーと映像は、しばらく借りてもいいかな。」

校長先生が私をじっと見る。

「あっ……はい。」

「すぐに会議を開く。これは大問題だ。早急に対処せねば。」

千翼先輩が目を輝かせて私を見た。それは、つまり、私はこの学校から存在を認められたということか。私が選んだこの学校は「正しい」ということか。千翼先輩の選んだ道は、正しかったということか。

「獅子さん、本当に申し訳なかった……。もう二度とあなたが苦しい思いをしないよう、すぐに対処します。この、相手側の名前を全員分、教えてくれるかな。」

「はい。」

私たちは校長先生に彼女たちの名前を告げ、校長室を後にした。この日の昼休み、彼女たちは先生に呼び出され、どこかへ連れて行かれ、その後は教室へは戻ってこなかった。私は昼休みも放課後も、千翼先輩に守られて過ごした。どうやら、これで私の人生は整理整頓されてしまったらしい。あまりにあっけなくて、まだ実感が湧かない。明日も変わらず、彼女たちには酷い扱いを受けるような気がする。


 翌朝、荷物持ちはさせられなかった。そもそも、私が行った頃にはもう彼女たちは家を出ていた。学校に着くと、机の上に紙切れがあった。

『申し訳ありませんでした。謝りたいです。3階の生物室まで来てください。』

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