犯人はシャーロット?事件
第147話 戻ってきた自宅にて
「ジャネット様、あのムキムキはなんです?」
「ネフリティスから連れて帰ってきたの。うちの新しい下男」
「ども!!」
我が家を訪れたカゲリナが質問してきたので、ズドンを紹介しておいた。
ちょこちょこ不器用なところはあるけれど、真面目に働くし、食事はよく食べるし、バスカーとも仲がいいし、特に問題はない。
ズドンがフランクな感じでカゲリナに挨拶をした。
子爵令嬢への態度では無いが、我が家の中はまあまあ治外法権なのでよし。
カゲリナは笑顔を引きつらせながら挨拶を返していた。
その後、ズドンがバスカーの散歩に出ていってから、カゲリナに最近の王都の話を聞いた。
「とある家の縁談が破談になったそうですよ」
「貴族っていつも誰それが結婚するって話ばかりしてるのね」
「人の色恋沙汰は一番の話題ですから」
なるほど、王都から出る用事も無ければ、話題は他人の家庭事情なんかが中心になってくるというわけだ。
私にはちょっと分からない世界だが、カゲリナなんかは貴族同士の裏事情に詳しいし、そういうゴシップが大好きなのだ。
「破談したというのは穏やかなじゃないわね。どういうことなの?」
「実は、その家に女性側が以前、他の貴族にラブレターを送っていたという証拠が送られてきたとか。それで男性側が怒ってしまって。ラブレターを送られた貴族というのが、男性側と仲が険悪な貴族だったのです」
「はあはあ、それはゴシップ大好きな人々が喜びそうな話題だわ」
「それはもう! 最近ではこの話題でもちきりです! なんでも、このラブレターを高額で買い取らないかという提案があったらしいんですけど、女性側がこの話を蹴ったそうなんですよね」
「うわあ、それで話を蹴られた人が、男性側に秘密をばらしてしまったわけね? なんて恐ろしいことを」
さぞや修羅場が展開されたに違いない。
王都の中では、決闘やらで決着をつけるわけにもいかないので、仲違いしても双方は生きたまま。
暮らしにくくなっただろうなあ。
辺境ならば決闘して片方が死ぬから、遺恨も残らず分かりやすいんだけど。
だけど、残念ながらここは辺境ではないのだった。
「そんな告げ口をした人は誰なのかしら」
「情報屋を名乗ってる貴族の、マイルボン男爵ですね。本人は情報屋なんてかっこいいこと言ってますけど、裏では恐喝貴族って言われて蛇蝎のごとく嫌われてますねー」
「さもありなん」
納得である。
そのマイルボン男爵が社会からハブられてないのは、彼がたくさんの貴族たちの秘密を握っているせいだろう。
とんでもない人物が王都にいたものである。
だけど、面白い話を仕入れたとも思う。
これはシャーロットが喜びそうだ。
「シャーロットに教えに行こう」
「ラムズ侯爵令嬢ですか? 確かにこういう話は好きそうですよね」
思い立ったらすぐ行動。
私はナイツに御者をさせて、シャーロット邸へ向かった。
カゲリナもくっついてくる。
話のディテールはカゲリナの方が詳しいからだ。
そして、下町に入って彼女の家が見えてきたのだが……。
家の前で、シャーロットと馬車に乗った何者かが喧々諤々と言い合っている。
おやあ?
デジャヴを覚える。
以前のそれは、犯罪コンサルタントのジャクリーンだったけど。
今回は……。
「派手にやり過ぎではなくって? このままでは、敵が増えて身を滅ぼしますわよ、マイルボン男爵」
「はっはっは、心配ご無用! 私は多くの方々から愛されていますからね。彼らの秘密が私の手にある以上、それが世の中に出ることを恐れて、誰もが私を守らざるをえない」
「疑心暗鬼で均衡状態を作っていると自負されてますの? うぬぼれですわよ。そんなもの、蟻の一穴から崩れる堤みたいなものですわ」
「東方のことわざですかね? むはははは、あいつらにそんな度胸はない。それに、今回のようにひどい目に遭う者が出てくると、私の商売道具の価値も上がるというものですよ! では失礼! わっはっはっはっは!」
シャーロットは呆れた様子で、馬車を見送っていた。
そこに私たちが到着。
「まあ、ジャネット様! どうです? ちょっと濃い紅茶をいただきたい気分だったのですけれど、ご一緒しませんか? カゲリナさんも」
「もちろん。それでさっきの馬車って?」
「マイルボン男爵。自分が突きつけられた槍衾の間を歩いているとは想像もしていない、脳天気な御仁ですわ」
シャーロットは半笑いになった。
しまった。
この話題はシャーロット的にあんまり面白くはなかったか。
「どどど、どうしましょうジャネット様」
「落ち着いてカゲリナ。この話はやめて、他愛もない世間話をしましょう」
「は、はい!」
そういうことになった。
シャーロット邸に入っていくと、横合いからスウーっと砂が詰められてパンパンになった革の人型みたいなものが差し出されてきた。
インビジブルストーカーかな?
シャーロットはこれを見て、インビジブルストーカーに礼を言うと……。
「バリツ!」
彼女の背丈ほどもある人形を、ズドーンと吹き飛ばしてしまったのである。
うわー、怒ってる!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます