少し先の一場面 3章後半

少し先の一場面 ダンジョン攻略 20階層

 


 ミヨガダンジョン20階層。


 この階層に初めて足を下ろしたプレイヤーたちは少し残念そうな表情を浮かべていた。


「15階層がなんちゃってアスレチックだったから、今回も似たような感じだと思ったのだけど……」

「これだと間違いなくゲートキーパーだろうなぁ」

「おうふ」


 アベレージ65を超えるレベルのモブモンスターを倒し、この階層まで来られるプレイヤーは全体を見ては相当な上澄みではある。しかし、このダンジョンに関していえば、その上澄みであってもあっさり負けてしまう魔窟だ。


 特に5層ごとに存在しているこのダンジョンに挑むプレイヤーたちから、壁と呼ばれているゲートキーパーは別格の強さを持っている。


「アスレチックから2手に別れる道があったから、もしかしてもう片方は別の属性のゲートキーパーとかなのかね?」

「10層目がそうだったからそうなんじゃねぇかなぁ」

「エリアを見る限り、地属性か風属性か」


 今このプレイヤーたちのいるエリアは荒廃した峡谷。場所によっては足を踏み外すとそのまま底の見えない崖下に落下してしまうようなところも存在している。

 イメージとして一番近いのはグランドキャニオンなどだろうか。さすがにそこほどの規模はないが。


「掲示板見る限り到達したって情報も出ていないし、おそらく俺たちが最初の到達者だ」

「一回で討伐出来たら自慢できるなぁ。はは」


 明らかにそんなことはできないと思っている表情でパーティーの一人が声を漏らした。


「無理だろうね」

「むりむりむりっすぅ」

「できもしないこと言うなって」

「やっぱりそう思うよね」


 パーティーのうちだれも欠けることなくこの階層まで到達できたものの、このプレイヤーたちが持ち込んだアイテムはほぼ尽きてしまっている。


「次誰かが死んだ瞬間に総崩れ起こすでしょ。もう蘇生アイテムないんだから」

「MPも回復間に合っていないからなぁ」

「もうちょい待機しとく?」

「可能なら全快まで回復しておきたいところだな」


 本当であればMPの自然回復を待ってボスエリアに向かうべきなのだが、そうも言っていられない事情もある。


「すまん。そろそろログアウトしないとまずい」

「まさかここまで来れるとは思っていなかったからなぁ」

「アイテムも持ち込み少なかったし、リアルはてっぺん越えてんだよな」

「ここまでぶっ続けだからしゃーないよ。俺だって警告出てるし」


 この階層に到達するまでにかかった時間。1層ごとにかかる時間はそう長くはないが、20層も続けばそれなりの時間になってしまう。事前に準備していたり、仲間との待ち合わせだったりと、本格的にダンジョンに潜るには結構な時間がかかるものなのだ。


「おいぃい!? それ出てるなら言えや!」

「すまそ。下手に水差したくなかったんだー」

「あー、それは仕方ない。気持ちはわかる」

「いや言って!? 突然強制ログアウトされると困るのはこっちなんよ」


 そしてこのパーティーも例外ではなかった。

 中には廃人と呼ばれる、制限時間ぎりぎりまでログインしっぱなしのプレイヤーもいるが、そんなのはほんの一部。普通はこのようにログイン時間に制限があるものである。

 そして、そのことを言い出せないのも、状況によってはままあることである。


 少しだけ足を速めたパーティはダンジョン中を道なりに進んでいく。周囲の景色は広く見えるにも関わらず、分岐なども見当たらず完全な一本道である。

 

「しっかし、モブモンスターが一切出てこないな」

「そうだな。まあ、サクサク進めて楽でいいんだけど、逆に怖い」

「ログアウトまで時間もないし、勝てる勝てないにかかわらずこの階層で終了だな」

「ああ」


 そんなことを話しながらプレイヤーたちは周囲の警戒を怠らない。あまり名の知れたパーティーではないといっても、ここまで来ることのできる上澄みの中の上澄みなのだ。


「にゃうん」


 そんなプレイヤー達の前に1匹のモンスターが姿を現した。

 姿は2足歩行のちゃとら猫。特別武器になるような道具は持っていないが、プイレイヤーと同じように防具を着こんでいる。


「なん」

「えっ」


 突然現れたにもかかわらず、襲い掛かってこないという普段なら割と緊張感のない現れ方だったのだが、プレイヤーたちはすぐに臨戦態勢に移る。


「おい、どっから来たんだこいつ?」

「警戒していたはずなんだけど、気づけなかったぞ」

「猫系のモンスターみたいだから、気配を殺すようなスキル持ちかもしれない」

「俺、嫌な予感してんだけど」

「俺も」


 そんなことを話しながらも、襲い掛かってこないモンスターを前にプレイヤーたちはできる限り相手の出方を伺い、何があってもすぐに対処できるように身を構える。


「看破不完全。レベルは上の桁が7だ」

「レベル70台とか、いやぁむりっす」

「これは完全に壁っすね。わかります」

「しっぽが2又に分かれているから猫又け「にゃぅん」」


 相手を観察して、わかったことを仲間で共有していたところで突然1人の言葉が途切れた。そして、そてと同時にモンスターの鳴き声が横を通り過ぎていった。


「え」

「は?」


 観察していあはずの相手がいつの間にか目の前から消えている。それと同時に、仲間の一人が死亡したことでポリゴンになっていくのが視界に映った。


「瞬殺って」

「レベル差あるって言っても」

「いつの間にか後ろにいるんだけど」

「閃〇? 〇花なの?」

「そのネタわかるやついるのか? ブリ「にゃぅん」」


 仲間のボケに乗ってしまったプレイヤーが、その先は言ってはいけないとばかりに、ゲートキーパーによって瞬殺された。

 さすがに何もできていない状況で2人も欠けてしまえば後の結果はお察しである。


「縮地系はやめろぉ。初見殺しすぎるだろうが」

「目で追えないとか初見じゃなくても難しくねぇ?」

「これだから壁はぅ「にゃーん」」

「防具しているのにどういうことだこれ」


 そうして最初の攻撃から1分も経たないうちにプレイヤーたちは一方的に蹂躙され、ダンジョンの入り口に戻されることとなった。


 


 

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