第3話 ゲームの注意事項はしっかり読むべきだ
白く染まった視界が徐々に回復していく。そして視界が完全に回復して最初に目に飛び込んで来た光景はデカい噴水だった。おそらくこれは補助AIが言っていた初期地点の噴水だろう。
周りを見渡す限り中世ヨーロッパ系の建物が多いか? まあ、良くあるファンタジー物の街並みだ。地面は所々そのままになっている場所もあるが石畳になっている。
さて、これからどこに行けばいいんだ? 順当にいけばギルドでチュートリアルの流れだと思うが。っと、目の前にウィンドウが出て来た。
ああ、チュートリアルを受けるためにギルドに行きましょう、と。矢印が伸びているからそっちにギルドがあるのだろう。
「ああ! レア種族! いたぁ!」
ギルドに向かおうと矢印の方向に足を向けたところで背後から大きな声が聞こえて来た。
「おい! そこの白いやつ! お前レア種族だろ。ちょっと待てよ!」
さっそく種族がらみで声を掛けられた。声の荒げ方からして掴みかかってきそうな勢いだな。とりあえず、GMコールの準備はしておこう。
「なにか?」
肩に手を掛けられ……てはいないが、何かを弾いた感覚があったため後ろを向く。そこには筋骨隆々のデカいアバターの男が興奮した面持ちで立っていた。
「なあ、それレア種族だろ。売ってくれよ! なあ! いいだろ!?」
いや、ここまでドストレートに言ってくるとは想定していなかった。興奮してその辺りの手順をすっぽかしただけかもしれないけど、少なくともデカい男アバターが小さめに設定した女性アバターに迫る状況は、何処からどう見ても犯罪臭が漂う。
「何んで売らないといけない?」
「はあ? お前みたいな見た目重視のアバターを作るやつにレア種族何て勿体ないだろ! どうせ戦いよりもファッションを楽しむつもりなんだろ! だから、最前線で戦う予定の俺がその種族を使ってやるって言ってんだよ!」
何言ってんだこいつ。人のプレイスタイルを勝手に決め付けた上に、最前線で戦う予定とか痛いやつなのか? まあ、何を言ってもこの男の態度からして引きそうにはないので、さっさとGMコールをしておく。
『どうなさいましたか?』
「レア種族関連で絡まれています」
『了解しました。直ぐにそちらに向かいます』
これで少し待てばGMが来るはずだ。もしかしたら補助AIかもしれないけどな。
「おい! 今何やったんだよ!」
「何でもいいだろ?」
この様子だとGMコールされたこと自体には気付いているようだな。逃げる様子もないし自分には非が無いと思っているのだろう。
『こちらGMです。GMコールをされたのは…貴方ですね。対象のプレイヤーはどなたですか?』
「……あ、こいつです」
突然現れたGMを名乗る女性に戸惑いながらも、言われた通りにあの男プレイヤーを指さした。
「あ? 何だよお前」
『プレイヤーネーム:****ですね。会話ログ及び行動ログを読み込みます。ログの確認が完了しました。ログの解析により恐喝及びセクシャルガードの発動を確認。ペナルティ発生案件です』
「はあ?」
女性GMの言っていることが理解できないのか男は苛立ったように声を上げる。
『プレイヤーネーム:ヴォルグ。貴方の行動の一部にペナルティが課せられます』
「はあ? ペナルティって何でだよ! 俺は何もやってねえぞ! ただこいつに種族を売れって言っただけじゃねえか!」
『ログを確認した限り、高圧的な態度で迫った上に、意図した行動によるセクシャルガードの発動が見られました。この行動だけでもペナルティが発生します』
「ちょっと掴もうとしただけだろ!? 何でそれが駄目なんだよ!」
『セクシャルガードの発生条件に貴方の意思は関係ありませんので』
「そんなの知るかよ!」
何だこいつ? もしかして中身子供なのか? いや、精神が子供のまま育った大人の可能性もあるか。
しかし、どうも会話を聞く限りアバター制作前にあった注意事項のところを一切見ていない感じだな。あそこの部分、同意しないと先に進めないから一切知らないという事はありえないのだが。
『それと、プレイヤー間での種族の直接取引は出来ません』
「はあ? そんなの聞いてねぇよ!? 売り買い出来るって言ってたじゃねぇか!」
『オークションに出品した場合は、とアバターの種族を選択する場で明確に説明しておりますが、聞いていなかったのですか?』
「聞いてねぇよ! 俺を馬鹿にしてんのか!? ぶっ飛ばすぞ!」
ああ、もう完全に頭に血が上ってんな。GM相手に攻撃の意思を見せるのは悪手過ぎるだろ。そもそも街中で暴力行為は駄目だしな。
『プレイヤーネーム:ヴォルグによるGMに対する攻撃の意思を確認。隔離措置に移ります』
女性GMがそう言うと同時に男のアバターがフリーズしたように動きが止まり、次第にポリゴンになって最後には姿を消した。
『お騒がせしました。今後このようなプレイヤー間で対処が出来ないような案件が発生した場合は、直ぐにGMコールをお願いします』
おっと、何時も間にか大分プレイヤーが集まってきていたようだ。まあ、あの男が大声で叫びまくっていたから気になって身に来たのだろう。
「ありがとうございました」
『いえ、仕事ですので。それでは』
女性GMはそう言うと瞬間移動のようなエフェクトを残して姿を消した。
うーむ。仕事とはいえ助かったのは事実なんだけどなぁ。……まあいいか。とりあえず、チュートリアルを受けるためにギルドに向かおう。
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