コールドスリープから目覚めたら異世界だった……?

戀塚千代澄

第一章 コールドスリープから目覚めたらVRMMORPGの世界だった……?

第1話 目覚め

 海の波間に浮かんで揺られているような、それでいて海底へと深く沈み込んでいくような不思議な感覚で僕は目をさました。


 ふわふわ、ふわふわ――

 ゆらゆら、ゆらゆら――


 寄せては返す波に揺られて海面を漂っているかと思えば、身体の芯の部分だけはずっと海の底へと引っ張られ、どんどん沈んでいく……。


 瞼はまだ開くことはできず、指もまだ動かせない――


 視界は白く塗りつぶされていた。

 真夏の太陽の下で瞼をとじても光を感じるのに少し似ている感じがした。



「そう言えば僕は何をしていたんだっけ――」


 少しずつ記憶が蘇ってくる。


 そうだ、僕は現代医療じゃ治せない病にかかっていて治療法が確立するまで延命する為に冷凍睡眠コールドスリープで眠らせられていたんだ。


 僕は中学生の時に原因不明の筋委縮性の難病と診断され、当時所属していた陸上部も続けられなくなって……


 ああ、その後どうなったんだったっけ……?

 記憶にはまだ靄がかかっていて、なかなか思い出すことができない――


 ――ああ、そうだ。

 現実世界で不自由な生活をするくらいならと、当時、技術の進歩が目覚ましかったVR(仮想現実)にはまり、四六時中VRの世界で過ごしていたっけ……

 当時は仕事も遊びも恋愛も全部、現実の世界じゃなくVRの世界ですれば良いと思っていたな……


 どうせならと、大学に進学する時に思い切ってVR技術が発展しているアメリカの大学を受験し、運よくそこに受かることができた。

 けれども「これからVRの世界にもっともっと没頭するぞ!」と意気込んでいた矢先にどんどん症状が悪化していき、次第に呼吸機能や心機能にも障害が出るようになり、とうとう命もあやうくなったんだ。


 最後の方はもう指も動かすことができず、まばたきでしかコミュニケーションが出来なくなるほどに……


 結局、せっかく受かった大学もほとんど通うことはできなかったな……


 それで今は治療が出来なくても未来にその望みを託せるならと、冷凍睡眠コールドスリープで延命することになったんだ。

 当時、医療系大学院の研究チームが発足させたベンチャー企業があって、彼らが提供する冷凍睡眠コールドスリープによる延命サービスを運良く受けられることになって――


 ――あれから何年が過ぎたんだろう?


 そう言えばあの子は元気にしているのだろうか――?


 ――あの子?

 あの子って誰だったっけ……?

 何か大事なことがあった気がするけど……

 忘れちゃいけない大事なことが……




▼▼▼




 少しずつ指が動くようになってくる。

 瞼も……開けられそうだ。

 よし、そろそろ起きよう。

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