二十六話目
俺はアディーレのいるという病室に向かった。まだ痛む体を頑張って動かしてアディーレの元へ急いだ。扉を開けると上半身を起こしている包帯を巻いているアディーレがいた。
アディーレは俺を見た。そして目を見開いた。
「ただいま。アディーレ。」
「ビル…。」
アディーレの目には涙が浮かべられた。俺は笑いながらその涙を拭った。俺は嬉しくて笑った。
「ビル、生きてたのね。良かった。」
「俺も、生きれて良かった。」
泣くアディーレと笑う俺。対照的な俺は何度もアディーレの涙を拭った。
「おかえり、ビル。」
それから約一年半が経った。人は減り物資もなくなってきた。しかし降伏させた国は十三国にのぼる。R王国の紅の軍隊はなかなか強かった。あと一つ潰せば私の勝ちだ。ニコライの望みは叶う。あいにくまだ幹部は生きている。最悪彼らを戦場に送らせればいい。
大きな鈍い音と共に戦車が進められる。銃声は次々なくなった。ここの街はもらったな。
降伏。
戦闘機によって焼夷弾を落とす。リボンに火が付きジェル状の油に点火する。それが服について離れなくてもがき苦しむ敵兵たち。戸惑って走り回り壁に体をこすりつける。熱い、熱いだろ。俺は笑った。勝利の美酒。
赤いワインの入ったグラスを投げ捨てる。薄いグラスは壁にぶつかるなりパリンと音を立てて割れた。赤いワインが血のように広がる。
口角を上げる私は銃に弾を入れる。そして後ろに向けた。
「なんのようだ。」
そこには冷たい瞳の彼が私に銃口を向けて立っていた。
「ドラジエント。」
するとドラジエントは銃の引き金に手をかけた。私を撃つ気か。私は笑った。
「まさかだなドラジエント。スパイだったんだな?」
すると淡々と口を開いた。そこから、出る声は低く怒り狂う少年とは思えない声だった。
「スパイ?違うよ。復讐だよ。この国へのね。…前戦争したでしょ?その時、お母さんもお父さんも友達も何もかも殺した。それは君のせいでしょ?なのに、なんで君が生きて皆死ぬの?おかしいよ。アディーレも馬鹿だよね。復讐のために体壊したのにここで幸せそうに笑ってる。アディーレだけは僕の気持ちわかってくれると思ったのに。でも、いいや。僕はアディーレが好きで、笑っていてほしい。あの外交官やビルさんが笑わせてくれて油断させてくれるならそれでいいよ。………ごめん、この話無駄だったね。」
そう言って彼は美しく微笑んだ。優しく笑った。その姿はアディーレを思い起こすようだった。
「さようなら。」
バンッ
ドラジエントの声と同時に銃弾が放たれた。私は笑った。こんなもんさと何度も笑った。憐れむように瞳を輝かせ。
ドラジエントは目を見開いてカタカタ震えていた。顔もどんどん青ざめていた。
「ヴィラ、さん。」
ヴィラが彼を撃った。手に銃弾が当たり衝撃でドラジエントは銃を落とした。武器を持たない彼は小鹿のように震えて恐怖に染まった顔でヴィラを見上げていた。クククと喉を鳴らすヴィラはそんなドラジエントを見下していた。
「お前馬鹿じゃねーの?」
ヴィラはそう言って歩き出した。そしてドラジエントの持ってた銃をブーツで踏みバキッと音を立てて壊した。
私は彼の言葉を思い出した。復讐。
「戦争に悪も善もない。復讐は不必要だぞ。ドラジエント。」
ドラジエントは泣き出した。しかし私等は彼を撃ち殺さなかった。本当なら撃ち殺してやっても良かった。
「なにしてんの。殺せよ。」
そう言ったのはウィルサールだった。相変わらずだね。私は笑った。
「もう少し生かしておく。」
するとドラジエントは狂ったように叫び出した。
「嫌だ!お前らなんかのために生きたくない!殺せよ!今ここで。こんな姿でアディーレに会いたくない…。」
声を上げて泣いた。ウィルサールは顔を顰めた。そして鋭い鉄の輝く剣をドラジエントに向けた。ドラジエントは怯えたが動こうとしなかった。
「なら俺が殺す。」
「えーいいじゃん、生かしとこーよ!その方が面白い!!アレクサンドルを殺そうとした罰だ!」
と楽しそうに笑うヴィラ。
「……お前のとこの兵士皆なんか足りてないな。」
と呆れるウィルサール。その通りだよ、全く。私はドラジエントに手を差しのばした。
ドラジエントは私を睨んだ。
「私とこい。復讐は一旦忘れアディーレを助けにいけ。これからもっと荒れる。だからアディーレは生きて帰れる可能性は低い。お前の力でアディーレを助けてやってくれないか?」
「でも、僕機械作ることしかできないし。」
「それでいい。馬鹿みたいに突っ込むより武器を作る方がいい。我が国はパンと同量武器がなければ生き残れない。」
私の手を小さなドラジエントの手が触れた。
「わかった。」
これで戦争の終わりが近づいた。
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