二十四話目

 苦しみが最高潮に達したとき、確かに俺は希望の光を見た。我が国の城。軍事基地。当たりは戦火と黒い煙。悲惨な姿ではあったが確かに俺のいた軍事基地だった。涙が溢れた。そしてその城に入った。



 

 僕はダニイルさんの背中を追って戦場に出ていた。それから約2ヶ月。やはり悔しいが優秀なダニイルさんの指揮は的確で死者はあまり出なかった。一時軍事基地に戻ってきた。騒がしいなと、溜め息をつきながら自室に戻る。いつもの煙草の匂いが僕をまとう。ダニイルさんは豪快にベッドにダイブした。そして大きな声で「やっぱりいいベッドだなー!!」と言った。確かに戦場で用意されていたベッドは硬いベッドというか布。僕もベッドに飛び込みたいのを恥のために我慢した。

 外は騒がしい。戦争中だからってのもあるが流石に。笑い声すらも聞こえる。

「なんかやけに煩いですね。」

「なんだろな〜。嬉しそうに笑ってるけど…。聞きに行ってこいよ。」

「え、僕がですか?嫌ですよ。」

「行ってこいよ。」  

 圧倒的ダニイルさんの圧に負ける僕は疲れた足を引きずりながら廊下に出てそこにいた男に話しかけた。

「なんの騒ぎですか?」

「帰ってきたんだよ!死んだって言われてた外国派遣組が!!これで戦争の終わりが近くなった!」

 そう興奮気味に言う男。僕は息を止めて目を見開いた。

「は…。本当なんですか?」

「本当だよ!!今医務室にいるから見てきな!」

 僕はその一言を聞くと走り出した。全力で、足が体が疲れているというのに走った。確かに痛みが走ったがそんなことどうでも良かった。帰ってきた。ビルが帰ってきた!!その事実に体を震わせて喜んだ。死んだと思っていたあいつが。

 医務室の扉を乱暴に開けるとそこにはヘラヘラ笑う包帯を巻く高身長のあいつがいた。ビルは僕に気がつくと笑って手を振った。

「スミレちゃん!久しぶりやんな〜。」

「アンタッ、…生きてたんだ。」

 僕は言葉足らずにそう呟くと相変わらず軽いノリでヘラヘラ笑ってた。痛々しい顔に張り付く笑顔に僕は少し安心を覚えた。それでも体がカタカタ震えていたのは見逃さなかった。手だって手汗がすごいし顔色は悪い。怖かったのだろう。震える声などを聞いてそう思った。僕は震えるビルの手の甲に手をのせ、軽く笑ってやった。手は驚くほど冷たかった。

「なんや、死んだと思っとったんか?ひどいわ〜傷つく〜。まぁ、ええわ。俺なぁ、あんさんとアディーレに助けられたんよ。」

 ビルは思い出すように目を細めた。

「僕とアディーレさんに?」

「そうそ。死にそうになりながら歩いていたけど、今にも意識が飛びそうで。でも、ふとスミレちゃんを思い出したんや。一緒にしたこととか笑ったこと。そして、俺、アディーレに帰るって約束しとったんや。だから死ぬ訳にはいかねーとおもってもうてな〜。ホンマありがとうな。」

 ビルは愛おしそうに命のありがたみに微笑んだ。相変わらず女顔なせいで長いまつ毛が震え女っぽく見える。フフフと声に出して笑っていた。僕は驚きと喜びのあまり声が出なかった。

「アディーレとかニコライさんどうなった?」

「義足は大成功。しかしアディーレが負傷したからニコライさんが戦争を止めるって言って外交してるよ。なんか、忙しいな。」

 するとビルの息が一瞬止まったのがわかった。

「…ホンマ?アディーレ怪我してもうたん?会いに行かなあかんやん。ニコライさんにはあったら頑張ってくださいと伝えてくれや。頼んだ。」

 そう言って僕以外の見舞いに来た人に挨拶いていた。

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