[9] 生活
何かが大きく変化したわけではない、というのが個人的な感想になる。
都会に出て冒険者の店に登録してそこの2階に下宿することになって、2人で1部屋借りた。他のことはだいたいにおいて些末なことだ。
「でかいことやろう!」というのはりっちゃんの口癖のようなものだ。特にプランがあるわけではない。
「いきなり大きなことやろうとしても無理だよ。まずは小さなことから始めようよ」
「そんなのつまんない」
「院長先生に教えてもらったでしょ。知らない場所に来たらまず?」
「できる限り周囲の環境を知る!」
「それ。よく覚えてた、えらいえらい」
「天才だからね」
「ってことで近くの森に入って薬草を採ってくる仕事を受けてきました」
「よっしゃ、私がこのあたりの薬草全部とりつくしてやる」
「全部はだめだったでしょ」
「3割残して取りつくしてやる」
どんな植物が生えているのか。どんな動物がすんでいるのか。だれがどんな風に門の出入りを管理しているのか。だれが薬草を買い取り、だれがそれを利用するのか。
ひとつひとつ丁寧に学んでいく。この都市のことを知る。
それらの情報は何かの役に立つことがあるかもしれないし、ないかもしれない。そもそも知識と知識の結びつきは有機的で複雑で何がどう有用かなんて評価しきれないけど。
結果として生存確率を0.1%でも0.2%でも上げられたならそれは十分すぎることだと思う。
並行して魔法について勉強する。
私とりっちゃんの魔力の動かし方はほとんど我流である。系統だった学習というものを行っていない。基本的なルールをもとにあとは概念決闘を繰り返してきた。
それではだめだ。より上のレベルでは通用しない。
例えばりっちゃんは最序盤から無理な速攻を仕掛けようとする傾向がある。私はその攻めを受け止めきれない。けれども都会ではそんなもの研究されつくされていて簡単にあしらわれてしまうのだ。
どうすればいいのか?
積極的に周りの人に決闘を挑むことにした。りっちゃんだけでなく私も。
りっちゃんの魔法の扱い方が雑なのは半分私のせいである。いい加減な考えなしの攻めでもどうにかなると思わせてしまった。
それを矯正するには今までもこれからもりっちゃんと一番対戦することになる私、スパーリングパートナーである私が、強くなるのが手っ取り早いと考えた。
幸いなことに店の1階でたむろしてれば相手は楽に見つかった。私のスタミナは無尽蔵に近く際限なく決闘できたがあんまりやりすぎると目立つのでそれはやめておく。
先に成長を実感できたのは私の方だ。
スタミナ切れを狙わなくともりっちゃんに勝てるようになった。学んだ構成を試しみればりっちゃん相手にわりと容易に優位をとれてそのまま押し切れたのだ。
ただそうなってくると俄然やる気をみなぎらせるのがりっちゃんだ。負けていられないと知識を貪欲に吸収すると3日もたたずにあっさり私を抜き返していく。
もっとりっちゃんの力になりたい、私はそう思って新しく得た戦術をもとに新たな対抗策を考案する。再び私がりっちゃんを上回る。
対抗策の対抗策をりっちゃんは独力で見つけ出す。それもあくまで彼女らしい正面突破のやり方で。潰される前に敵を潰すという方法。力づくでそれを通してきた。
そんなこんなで私たちは抜きつ抜かれつ互いが互いを高め合ってみるみるうちにレベルアップしていった。
周りの人も子供の成長は速いもんだなと驚いてた。異常すぎて目をつけられるんじゃないかと恐れてたけど、冒険者というのがわりといい加減な人種で助かった。
仕事の方も順調で門番の人や薬師の人など知り合いも増えていく。問題があるとすればりっちゃんが暴れたりなくて不満がたまりつつあることぐらいだろう。
暮らしてみてわかったけどこの都市の、特に私たちが住んでるあたりは、かなり警備体制がしっかりしている。自治組織と冒険者の間で上手に連携がとれているおかげだ。
冒険者は都市にとって便利なものである反面、厄介なものでもある。
その力をいい感じに利用できてればいいが、あんまり野放しにしてまうと逆に食い散らかされてしまう。それなら首輪でもつけておきたいが、首輪をつけようとすれば彼らはすぐに逃げ出すだろう。
まったくいなくても困るが、たくさんいすぎても困る。
そんなバランスがここでは奇跡的に保たれている。冒険者側で調整に大きく寄与している人物は2人、店主とアシュリーさん。
店主はおそらく元冒険者なのだろう、わかりやすい形で冒険者たちを統制したりはしないが、静かに威圧することで彼らの行動を制限している。
それよりアシュリーさんだ。彼女は上級冒険者でうちの店のトップではあるけれども一介の冒険者にすぎない。なのに他の冒険者に対して直接的な指導を行っているのをよく見かける。
彼女の権威の源は結局のところ純粋な暴力だ。
単純に強いからこそみんな彼女に従う。冒険者たちの行動原理はわかりやすくて強いやつの言うことは聞く。強くないやつの言うことは聞かない。
要するに一番強いやつが模範としてちゃんとしてるから風紀が保たれてるってことだ。
私たちが都会にやってきて1か月たった。
夕方すぎ1階の食堂でパンとスープを食べていたところ、そんなアシュリーさんが話しかけてきた。
「君たちちょっと私の仕事を手伝ってくれないか?」
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