[4] 修行
その日から早速りっちゃんは強くなるための修行をはじめた。
といっても何か大きく生活が変化しただとかそういうことはなかった。
りっちゃんは活発に遊びまわる子だったのでもとよりその生活自体が修行のようなものだった。遊戯と鍛錬が混在して暮らしていたところその割合が多少鍛錬の方に傾いた、その程度のことだった。
ただし新しく生活の中に入ってきたものがあってそれはいわゆる『概念決闘』だった。
魔法使い同士による脳内模擬戦。
互いの脳を魔術的に接続、イメージを共有することで実戦さながらの魔法戦闘を脳内で展開させる。自身の身体及び精神能力はそのまま反映されるしスタミナもがっつり消耗する。
違いがあるとすれば身体に傷を負うことがない、それぐらいだろう。
つまりは目隠し将棋のようなものといえばいいのか。
いやだいぶ違う気がする。そもそも私、将棋まともに指したことないし、まあそれはいいや。
とにかくりっちゃんがそれにはまった。
日が落ちて孤児院に戻ってきてから、四六時中暇があれば私は概念決闘を挑まれることになった。
相手をできるのが私ぐらいだったからしょうがないと言えばしょうがないことだった。
りっちゃんの1日をだいたいまとめると、朝起きてさんざん外で遊びまわって帰ってきて、私相手に何度も何度も概念戦闘を繰り返して、はじめのうちはりっちゃんが勝つんだけど、そのうち私の勝ち星が増えてきて最後は倒れるように意識を失って眠る、そんな感じだった。
もともと才能にあふれていた上に、だれに強制されるわけでもなく自分から本気でそんな生活を送っているわけだから、りっちゃんはめきめき強くなっていった。
ついでに私も。
りっちゃんとおんなじことをやってたわけだから当然と言えば当然だ。概念決闘のちょうどいい練習相手になることができたから私にとってもそれはうれしいことだった。
毎日毎日りっちゃんの魔法に触れる中で私にはわかったことがあった。魔法適性測定器具がなぜこわれたのかということ。
別段難しいことじゃない。りっちゃんの魔法展開速度が規格外すぎたのだ。
人はそれぞれ自分の中に魔力タンクを持っていてそれを外部に展開、操作することで魔法を発動させる。
りっちゃんはとにかくその魔力を外に引き出すスピードが速い。速すぎる。
私は多分普通ぐらいだと思うけれど私が1つ魔法を発動させる間に、りっちゃんは5つか6つ同時に魔法を発動させている。
そんな話まったく今まで聞いたことも読んだこともなかった(おそらくはまだまだりっちゃんは成長途中でさらに速くなる可能性もある。末恐ろしい)。
予測されるよりずっともっと大きな速度で魔力を流し込めば器具が壊れてしまってもおかしくはないだろう。
そして1年ぐらいそういう生活をしたころに私は私についても大きな発見をすることになった。
概念決闘を連戦していつも疲れて寝るのはりっちゃんの方で私はほとんとくたびれていない。
はじめはりっちゃんの方が年下だからとか、本気で取り組んでるからとかそんな風に思っていたけれど、何かがおかしいと気づいた。
そういえば私は一応転生者のはしくれでつまり周りと大きく違ったとしても不思議ではないのである。
みんなが寝静まったのをみはからって私はそっと抜け出すと誰もいない森へと入った。
上空に向かって風の形にして全力で魔法を放出していく。自分の魔力の底がどこにあるのか私は確かめたかった。
魔力容量に個人差はほとんどないとされている。
それこそ将棋の例えで言えば、歩が1枚多いとか少ないとかその程度の違いしかない。うん、この例えはわりと悪くない気がする。わかりやすい。
けれども私とりっちゃんの間にあった容量差はとてもその程度で説明できるものではなかった。あきらかな異常。それも他の人を見てわかったことだがりっちゃんでなくて私の異常。
その日、私は3時間ほどぶっつづけてで逆巻く風を夜空に放出しつづけてやっとあきらめた。ちっとも疲れてる感じがなくて魔力が切れそうになかったから。
これは多分バグなんだなと私は考えた。
りっちゃんみたいに世界に望まれた英雄という感じでなくて、ただ生まれた時の何かの手続き失敗で容量がおかしくなってるみたいな。
そう思う理由を端的に言ってしまえばなんだかこの力は私にはふさわしくない気がするから。
まあいいや。使える力は存分に使わせてもらおう。
普通の考えでは魔力容量に個人差は小さい。私みたいな人間の存在は想定されていない。
私だけ駒を1000枚ほど持った状態で将棋を始めるようなものだ。圧倒的有利。
これに勝てるとすれば、私がまった考えない手を指してくるような天才をつれてくるしかない。それこそりっちゃんレベルの。
今のりっちゃん相手なら問題なくあしらえる。けれどもこのままりっちゃんが成長しつづければどうなるのか、私には読み切れない。
今だってりっちゃんの魔法の扱いには理解できない部分がある。そしてそれは多分今後加速度的に増えてくはず。
だとしてもその未来をなんら気にすることはないだろう。りっちゃんが私を倒すとすればりっちゃんが正しく、そして私はそうあることを望むから。
私は私の異常性に気付いてもそれをだれにも言わず、また生活を変えることもなかった。
さらに1年がすぎて試練の時が訪れた。
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