未来に現れる天才


「いや、それでも」


『それでもなんです?』


「わたしが自分の人生をどう生きるかはわたしの勝手ではないですか?」


わたしは言われ続けている事につい大人気なく開き直りとも取れる反論をした。


『たしかにそうです』


ミクは簡単にそれを認めた。


「……じゃあ」


『だからこそ文句を言うためにこうやって貴重な未来電話を使ってまで話しているのです。あなたの論文のせいで何億人もの人が自殺する事を教えてあげるために』


「なんだって?!」


『少しは心が痛みましたか?』


「いや、あの……おかしい、おかしい。なんでそんな事に?私がそんな論文書くわけがない」


『いえ、書くのですよ。いづれ……』


「た、例えばだ。たとえば、そんなものを書いたとしてなぜ何億人もの人間が影響を受けるんだ?ありえないだろ」


『未来ではすべての人がネットワークで繋がっていて、誰かが脳内で思い描いた映像や旋律を固定化する技術が確立するの』


「そ、それは知ってる」


『なんで知ってるの?……まぁ、いいわ。そこで一人のとんでもない天才が現れるの』


「て、天……才?」


『そう、まさに天才!殆どの人が彼の映像美と至高の旋律の虜になってしまうのだけど、まぁ、あなたに言っても伝わらないわね』


「伝わるかどうかは試してみないとわからないじゃないか?」


『未来においては旋律といっても音階は存在しないのよ?わかる?そうね、あなたの時代でいうところのBEATLESが試験的に行った音楽が最も近いけど、それでも、全然別物と考えた方が良いわ』


「つまり、想像もつかないってことか……それで?その天才と私の様な凡人がどう関わってくるんだ?」


『そう、そこが問題なんだけど、たまたまあなたの晩年の……おそらく論文を読んで影響を受けるの』


「それは、光栄だね。ていうか、おそらく?」


『そこは、Jammy……あ、彼しか知らない事なのだけど、あなた大学の教授でしょ?だったら論文しか書くものはないじゃない?』


「……まぁ、確かに」


『ところが、そのインスピレーションを受けた彼は新たな作品を作る途中で……自殺してしまうの』


「……それはお気の毒に」


『遺書にはあなたの名前が書かれていたわ、ドクター山吹の深き絶望を表現しきれなかった自分の未熟さを悔やむ…と』


「まてまてまて、まさかそれで?後追い自殺とか?何億人も?」


『後追い自殺なんて生易しいもんじゃないわ。彼の最後のインスピレーションにシンクロしようとした人はほぼ間違いなく』


「そ、それは……私のせい?」


『違うとでも?』


「……いや」

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