和風喫茶で「あーん」するとか悶絶すぎる!

 なんだかんだ言いながら、私達は公園の入り口にある和風喫茶のドアをくぐった。


 リクの予想通り、高村先輩と遠藤先輩がしっかり待機していた。


 ……せめて、影からこっそりくらいの距離感、保ってくれたらいいのに。


 リクには平気そうに答えていたけど、やっぱりちょっと恥ずかしい。

 思わず手を離そうとしたけど、リクはがっちり掴んで離すまいとするので、諦めた。


 でも、先輩達は「あ、こんにちは」と簡単な挨拶をすると、あとは特に絡んでくることはなく。


「どうするサホ? テラス行く? 2階になっちゃうけど」

「うん。そこがいい」



 古民家を移築したというこの和風喫茶は、黒光りする柱に趣がある木造建築で、1階のフロアの他に壁側に沿ってロフトみたいな2階部分があった。

 2階の公園側は扉が大きく開口出来るようになっていて、そのままテラスに出られる。そこにいくつかテーブルが置かれていた。


 景色も楽しめるし、先輩達からも多少距離がとれる。


 和風建築にありがちな狭くて急な階段ではなく、たぶん改築したんだろう、少し新しい感じの木材で作られた広くゆったりとした段差の階段があった。

(と言っても周りと調和するように黒塗りして艶々と鈍い光沢が出るように加工されていた)


 リクに手を引かれて階段を登ると、ツツジに彩られた公園が一望できる。

 お天気もいいし、今日は結構混雑しているのに、よくこんないい席が空いていたな、なんて思ったら。


 店員さんが、示してくれたテーブルには、『予約席』の札があった。


 チラッと階下の遠藤先輩を見ると、親指を立ててウインクした。


 ……何もかもお見通しってことね。


 確かにこの和風喫茶の店内では一番の特等席。

 ありがたいけど……掌の上で転がされている感覚があるんだよね。

 まあ、でも遠藤先輩の好意に甘えて、せっかくなので楽しもう。


「なんか、やっぱり高村と遠藤に、いいように操られているよな、俺達って」

「もう今さら。悪いようにはされないと思うんで、開き直って楽しみましょう。ほら、リクが好きそうな、和菓子もいっぱい」


 私と同じように感じていたのか、ため息をついていたリクだけど、メニュー表を見て、表情が変わる。

 とっても嬉しそう。


 リクって、わりと食い意地が張ってるよね?


「うーん、白玉抹茶汁粉は捨てがたいが、パフェ類もなぁ……生クリームと合うんだよな、抹茶もアンコも」

「あ、パフェ、ミニサイズもあるから、両方頼むのは? 飲み物はどうしようかな? ほうじ茶ラテもいいけど、デザートメインならあっさりした方がいいかな……?」

「お点前セットとかもあるぞ?」

「ここまで来て自分で点てなくても。せっかくならお店で作ってもらった飲み物がいい」

「そういうもんか? うーん、やっぱり、ここは白玉抹茶汁粉は頼むとして、パフェとほうじ茶、かな」

「私もそれで」


 リクが店員さんに合図して、オーダーした、けど。


「なんで普通のパフェ、頼んだの? ミニじゃ……?」

「だって、同じもの頼むなら、レギュラーを2人で分けた方がお得じゃん?」

「それは、そうだけど……スプーンとフォークは2つ、って、絶対店員さんに、シェアするのバレてたよ」

「別によくない? 恋人同士が分けっこして食べるなんて、微笑ましいじゃん? これ単品しか頼まないなら、こいつらけちだなって思われるかも知れないけど」

「そうじゃなくて……その……」


 店員さんの視線が、妙に生暖かいのが、恥ずかしいのよ!


「こいつらラブラブだって?」

「……まあ」

「まあ、そう言われちゃうと、俺だって恥ずかしいけど。逆にたまのデートくらい、恥ずかしいくらいに恋人イベ、満喫しようよ。普段はこんなにイチャイチャできないんだし」

「………そうだね」


 たまの(というか初めてなんだけど)デートとは言え、人目につくのは恥ずかしい、とか言うと、絶対リクは「じゃあ人目につかないところでイチャイチャしよう」とか言い出しかねないので、私は妥協することにした。


 うん、私もようやく、リクの性格分かってきたよね?



「お待たせしました。白玉抹茶汁粉と抹茶パフェ、ほうじ茶です。あと、こちらはオーナーから」


 オーダーしたものの他に、小皿に盛られたカットフルーツがテーブルに置かれた。


「ありがとうございます」


 私はにっこり微笑み、店員さんにお礼を述べる。


「……なんで? オーナーからサービスって?」

「ああ、だって、ここ、遠藤先輩のおうちの経営だし」


 そう、高村先輩が勧めてくれた時にピンと来たんだけど、お店の看板を見て、納得した。


 遠藤先輩のおうちの……正確には遠藤先輩のお兄さんの、お店。


「え? ……ああ、そうか。タイム・エンド・ライフグループか」

「やっぱり知ってた? リクは詳しそうだもんね」

「なるほど。そりゃ、高級和服が仕事着になるよな」


 いくつかの和食レストランや和風喫茶などの飲食店も経営してるけど、メインは人材派遣事業だって聞いた。


「和装で仕事が出来る人材派遣会社、だったもんな。ユニフォームのレンタル付で。そうか、遠藤のお兄さんだったのか」

「大使館相手のレセプションとかで引っ張りだこみたいですよ。茶道、華道、書道、香道と、和道は一通り人材確保してあるって。私も将来、就職しようかな」

「必要ないだろ? サホは将来は俺のところへ永久就職だ」

「えー、女性の社会進出を妨げる気ですか?」

「そういうわけじゃない。そうじゃないけど……心配すぎる」

「えー、私がドジだから安心できないって?」

「サホが可愛すぎるから」

「へ?」


「これから、サホはもっとキレイになって、男が放って置かなくなる。だから、目の届く範囲にいて欲しい……俺のわがままだから、気にしないで。サホがやりたい仕事をするのを、本気で邪魔はしないから、安心して? ほら、食べよう? パフェが溶ける」


「あ、うん」


 可愛い、は今日散々言われたけど、「キレイになる」なんて言われると……恥ずかしいけど、嬉しい。





「ほら、あーん」


 のぼせていて、うっかりリクの差し出したスプーンを口にしてしまった。

 美味し……じゃなくて!


「いや、スプーンもフォークも2つあるよね?」

「だから、お互いに、あーん、しよ?」

「それは……」

「それとも俺にこのスプーンで食べろって? いいよ、サホと間接キッス、大歓迎」


「……あーん、してあげます」


 もう今さらな気もしたけど、間接キッスって、何か言葉にされると恥ずかしい。


 でも。

 スプーンを分けても、やっぱり、あーん、は恥ずかしい!


 目をキラキラさせて、スプーンが口に運ばれるのを待つリクの口に、ちょっと手が震えながら、パフェを一口分、近付ける。と。


 スプーンが口に入る寸前。リクが目を閉じて。

 パクッとスプーンを咥えると、とたんに頬が弛んで。


 めちゃめちゃ美味しそうに、笑う。



 ……ヤバい、可愛すぎる!

 目を閉じた顔って無防備すぎるから!



 これは、恥ずかしくても、あーん、したくなる!

 

 ちょっと、ムラっと来る、かも。


 ついリクの気持ちが分かってしまい。



 パフェとリクの笑顔を美味しくいただくことが出来ました。


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