部品

おじいさんは時計になった

もちろん知っている、あの歌を

動かなくなり

いつか忘れられる時計では

満足できないのだ

時計になって

最新のデジタル時計

電波時計になって

ずっと家族と共にいたい


時計になったおじいさんは

正確な時間を知らせ続ける

みんな意識していないだろうが

何回も時計を確認している

おじいさんはそれで生き続けられる

こちら側に在り続けられるのだ


そんなおじいさんのいる家に

ペットがやってきた

普通のペットではない

ロボットペットだ

「普通は飼えない動物」シリーズの

ロボットゴリラがやってきたのだ

ロボットゴリラは本物より小さいが

動きはゴリラそのもの

ロボットだから条約には引っかからないぞ


ロボットゴリラは人気者だ

みんなが家に見に来る

人が多ければ

時計も見られる回数が多くなる

おじいさんは嬉しかった

おじいさんは感謝した

時間に

人々に

ロボットゴリラに

そして

ロボットゴリラは時計をつかんで

投げた

ゴリラだから

投げた

時計は

壊れた


「せっかくだから、新しい時計を買いましょう。

ほら、電話もできて、ネットも見れて、

天気もわかって、話しかけてもくれる新しいやつを」


生きている人々の時間は

流れるという比喩を裏切らない

おじいさんの時間は

意味を失ってしまった

チク タク

三途の川の待合室で

今日も誰かが念仏のように唱えている

チク タク

タク タク


ロボットゴリラの様子がおかしい

関節がうまく動かなくて

倒れながらじたばたしている

カスタマーセンターに聞いたところ

もう修理ができないらしい

思いのほか売れなかったので

部品の製造が中止されてしまったのだ

ロボットゴリラはさらに壊れていく

ついにはほとんど動かなくなって

瞳を緑赤させるだけになった


家族はロボットゴリラを愛していた

だから

ずっと一緒にいられるように

ずっと忘れないように

ロボットゴリラを時計にした


何十年が過ぎても

時計は動いていたが


大きなロボットの古時計

今は もう 動かない

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