4.発見、初恋の彼【Side Nanase】

 今年、私は高校1年生になった。


 今日は部活動の見学または体験期間だ。うーん、どこの部活に行こう。


 正直、部活に入る気はなかった。しかし、今年から全生徒入部制となるのだから仕方ない。


 ひとまず学校に行かなきゃいけないので、準備を始める。


「おはよう。ななせ」

「おはよぉ」

「生あくびなんかしちゃって。夜更かししたの?」

「寝れなかったの」

「そう」


 私は洗面所に行き顔を洗う。


「そういえば!」


 リビングの方でお母さんの声が聞こえたので、私はハンドタオルで顔を拭きながらリビングに向かった。


「どしたの?」

「ななせが小学校1年生くらいの時に迷子になったの覚えてる?」

「もちろん」


 忘れるわけがない。あの日、あの時、私は恋に落ちたのだ。これが恋なのだと知ったのは迷子事件のずっと後だったけど。


「あの男の子。名前はなんて言ったかしら」

「雅太くん?」

「そうそう! 雅太くん!」

「それがどうしたの?」

「入学式の時見たのよ。1年生じゃないと思うから2年生か3年生なんじゃないかしら。顔もそのまんまでねぇ。あ、でも、ちょっと男らしくなってたかしら」


 私は口をぽかんと開けて阿呆のような顔をした。まさかこんなところで出会えるなんて。これは運命なのでは?


「はい、ご飯」

「ありがと。いただきます」


 朝からルンルン気分で学校に登校する。同じ学校に雅太くんがいると聞いたら、見える景色が色鮮やかに感じる。


 私のイメージだと、クラスでは人気者で体育会系の部活に入っててエースナンバーを背負ってるかも。いや、キャプテンとかの方が似合うかな?


 気がつくと学校に着いていた。朝から妄想が捗ってしまった。


「ねぇねぇ、ななせ。部活どこ行く?」


 中学からの友達である穂乃果が昼時に声をかけてきた。


「ねぇ、穂乃果。冬木雅太って人知ってる?」

「うーん、聞いたことないなぁ」

「だよねぇ」

「この学校の人?」

「多分」

「へぇ。あ、そうだ」


 穂乃果は自身のバックをガサガサと漁り、3枚の紙を取り出した。


「なにこれ?」

「部活名とその部活に所属する部員が書かれた部活動リスト」

「どこで貰ったの?」

「生徒会」


 穂乃果の行動力には毎度驚かされる。中学の頃は、フランス語研究会を創りたいと言って本当に創った程なのだ。


「よく貰えたね」

「まあね」


 私は穂乃果から紙を受け取り、ざっと眺めてみる。まずは運動部から。


 ……いないなぁ。


 少し期待を裏切られたようでしゅんとなったが、軽音楽部なんてのも似合いそうとポジティブになって先を見る。


「あ、いた」


 隣で一緒に眺めていた穂乃果がふと声を漏らしたので、私は「え、どこ!?」と慌てて問う。


「ほら、ここここ。文芸部」

「あ、ほんとだ!」


 『文芸部』と書かれた横に、ポツリと『冬木雅太』と書かれていた。


「部員1人じゃん!」


 まさか文芸部とは。でも、小説を書く雅太くんも似合いそうだ。


 その日の放課後、私は急いで社会科準備室に向かった。どうやら、ここが文芸部の部室らしい。


 コンコン。


 ……。あれ? まだ来てないのかな?


 コンコン。


 もう一度叩いてみると、「はぁい」と気だるそうな声とともに扉が開け放たれた。


 雅太くんだ。背丈は頼りがいのある高さで、肥満でも痩身でもない細マッチョ(そうな)体型。うん、かっこいい。


「こんにちは」


 開口一番礼儀正しく挨拶をする。第一印象は大事なのだ。


 すると、雅太くんは不思議そうな顔で「こんにちは」と返してきた。あれ、私のこと分かってない?


「私、一年の七咲ななせです」


 流石に名前を言えば分かるだろう。


「どうも」


 雅太くんは軽く会釈した。え、それだけ? ていうか覚えてなさそう? 嘘でしょ……。


 私は落胆したが、すぐに気持ちを切り替え話を繋げる。


 その後、現在の雅太くんは私のイメージとだいぶズレていることが分かった。無駄だの面倒だの効率的だの、人生そんな甘くないですからね!


 しかし、このままだと雅太くんは部活に来なそうなので私は何とかして来るように説得した。無事、成功。


 どんな性格になっていようと、私は雅太くんのことが好きだ。ただの一目惚れなのかもしれない。それの何がいけないの?


「七咲。完全下校時刻だ。帰るぞ」

「はい!」


 無駄だの面倒だの言って、結局は面倒見のいい優しい人だ。そうだ、雅太くんのことはなんて呼ぼう。くん付けは初対面の方にするとハードル高い気が……。初対面ではないけれど(私のことを覚えてないので実質初対面)。


「あのぉ、なんてお呼びすれば……」

「なんでもいいぞ? 呼び捨てでもなんでも」

「じゃあ、先輩で。先輩は私のことななせって呼んでくださいね?」

「なぜ」

「先輩、それ口癖ですかぁ?」


 雅太くんは私に気がない。だから、私は猛アタックする。この部員仲間という位置関係を利用して。部室と2人きりなんて、これ以上ないシチュエーションだ。


「なにニヤけてんだ?」

「別にぃ、なんでもないですよぉ?」

「気持ち悪いやつ」


 少し口は悪いけど、それは私もだからお互い様ということで。


 ————————————————————

 ※あとがき


 5話ほど一気に投稿しました。一応、ストックはあるのですが、一気に投稿してしまうと途中で投稿速度が減速してしまいそうなので、ここからは2、3日に1話程度で投稿していきます。ご了承ください。

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