第92話・作戦前夜③
レイン達が彼に続いてドアをくぐると、その先の部屋には魚雷を大型化したかのような物体が格納されていた。丸みを帯びた先端や、後方に一機だけ取り付けられたプロペラなど、見てくれはまさに魚雷その物だったが、大きさが比較にならないほど大型だ。
「ドルフィン。俺達はそう呼んでいる」
その物体に手を付きながら、ニールが言う。まるで乗り慣れたバイクを撫でるかの様な手つきだった。
ドルフィンの胴体には所々線状に塗装が剥げた所があるが、錆びや凹みと言った、通常使っていく上で付く傷すらついていない。
「これが例の?」
レインがドルフィンを指差しながら言った。ニールが彼の方へ顔を向け、返す。
「そう、新兵器だ」
ドルフィンの胴体に取り付けられた梯子を上がり、ニールは黒いボディの上に上がる。レインが彼に続いて上がり、カーク、マックスの順で梯子を上がった。
梯子を上がると、ドルフィンの全貌が見えた。この黒い物体は大きな魚雷というより、Uボート潜水艦をそのまま小さくしたかの様な形状をしているようだった。流線型の黒いボディの上にブリッジの様なでっぱりがあり、その天辺に先程レイン達が通って来た様なハッチがあるのが見えた。
ニールがブリッジの上に上がり、ハッチを開けて中へ入る。レインがハッチを覗き込むと、中からニールの声が響いた。
「中は狭いから気を付けて入れ」
鼻を鳴らし、レインはそのハッチへ滑り込む。後に続くカークは身体の至る所をぶつけ、悪態を付きながらハッチを通り抜け、マックスは入る事を遠慮した。出れなくなるとマズい。
ハッチを抜けた先は光が無く真っ暗だった。ニールが壁際のボタンを操作し、ドルフィンの電源を入れる。中に取り付けられたコンソールや計器に電力が供給され、狭い内部がほんのりと明るくなった。
「ワーオ、さながら小せぇ潜水艦だな」
カークが首を回しながら言った。
ニールがキチキチに並べられた六つの座席の一つに座る。彼の前には飛行機の操縦桿の様なハンドルが地面から生え出ていた。どうやらそこが操縦席の様だ。
レインはなんとなしにニールの隣の席へ座る。六つの座席は二席が三列で並べられたレイアウトだったので、カークはレインの後ろの席へ腰を下ろした。
「俺達のチームは、コイツに乗って敵の用水路へ突入する。突入後、コイツは自爆し、俺達は合流地点まで移動した後、陽動チームと合流。そして彼等のボートに乗ってシーサーペントまで後退し、撤収する」
ニールが淡々と作戦内容を説明した。ブリーフィングで聞いたものと同じ内容だ。
「ドルフィンの航行速度は49ノットだ。速すぎて腰を抜かすなよ?」
少し口角を上げながら、彼は続ける。レインはそれを鼻で笑った。49ノットはキロ換算で90キロ。ナギやザイツの速度と比べれば、蟻と大差ない速度だ。
「心配は要らない」
「そうか、ならもういい」
ニールは操縦席から腰を上げ、出入り口のハッチへ向かい、言った。
「作戦区域まではおよそ十六時間だ。しっかりと準備を整えておけ」
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