第270話 2人目のセイレーン
「……」
「や、め゛――」
命乞いをしようとする【1】の口にメアは渡したジャマダハルを突き刺した。
そしてその口が動かなくなるまでグリグリと念入りにダメージを与え続け、遂に【1】は姿を消した。
これで正真正銘の勝ちだ。
「あ……」
メアの体が発光する。
今ので進化のレベルに達したのだろう。
そのシルエットから大きさが変わったりしているわけではないことが分かるが、ティアラ? 王冠のようなものが立派になっている気がする。
「ふむ。セレネと同じセイレーンに進化したな。高密度の魔力を絞り出した事で生まれる涙は人々を癒す強い効果があり、歌には従来のものに加えて記憶を操作する力もある。種を反映させる為の繁殖機能も高まっているはずだ」
「リヴァイアサン。もう大丈夫なんですか?」
「セレネが傷を塞いでくれたからな。万全ではないが喋る事くらいならもう問題はない」
「セイレーンがまた1人生まれたのは嬉しい限りだわ。ふふ、これで私の仕事が少し楽になるかも」
メアが進化して新たな姿をみせるとリヴァイアサンとセレネ様がさっと近寄って来た。
セレネ様の笑い顔がちょっと不気味なのは気になるが、セイレーンという事はこれでメアもアイテムであるセイレーンの涙を生み出せるようになったという事だな。
「輝明……」
「メア、声が元に……」
「うん。進化して新しい声帯に変わったみたい。もうまともに話せないと思ってたから、こうしてまた輝明と話せて嬉しい」
メアは笑顔を見せながらもその瞳から涙を流した。
「メロウという種族にとって声っていうのは特別なものなの。特に婚姻の際は決まった唄を歌う慣わしがあってこれが歌えるかどうかは大きいのよ」
「セレネ様、その、婚姻とかそういうのは……」
「何? メアにとってもそれは大事な事……。ま、当人達には色々あるって訳ね」
何かを察したかのようにセレネ様やれやれといった表情を浮かべる。
すると、話が終わるのを待っていたかのように今度は桃先輩が口を開く。
「これで白石の用は済んだ?」
「えっと……『氷冷留竜玉』と『セイレーンの涙』を貰うのが本来の目的だから実はまだ――」
「なるほど。『氷冷留竜玉』か。我は1度生成してしまったからまだ無理じゃ。トゲは元々持っているかもしれんが……取り出すのにはちょっとばかしコツがいるからなあ」
リヴァイアサンがうーんと唸りながらトゲくんを見る。
ようやくここまで来たのに、もしかして手に入らないのか?
「トゲ。人の姿になれるだろう?それで白石輝明についていったらどうだ? お主も白石輝明の事は悪く思っとらんだろう?」
リヴァイアサンがそう語り掛けるとトゲくんは体を縮ませ、全身を光らせた。
リヴァイアサンのように姿を変えているようだ。
「――嫌いじゃないよ。でも僕には主様がいるから」
姿を変えたトゲくんはあどけない少年の姿で困ったように呟くのだった。
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