第193話 津波

「や、やったわね……」

「大丈夫か? ほらポーション」

「ありがとう」

「「こっちもぉぉおお!!」」

「があっ!!」

「分かった分かった順番な」


 満身創痍な全員に俺はポーションを配った。

 没収されていたポーションを返して貰っていて良かった。


 正直なところもう少し余裕をもって倒せると思っていたんだが……シードンは想像以上に強敵。

 しかも――


「これで【7】ってことはもっと強いのがわんさかいるのよね?」

「多分な」


 ポーションを飲んだメアは息を整えて呟いた。


 そう。

 今戦ったのはあくまで【7】。

 この数字が強さの序列を表しているとしたら、まだまだ強い個体がこの下にいるはずだ。


「ねえ、シードンがこんなところまで来ているのはセレネ様も知らないと思うし、この強さも念頭にないと思うの。だから一度戻って報告しない? 戦力も私達だけじゃ足りないわよ」

「そうだな。万が一今みたいな奴が俺達とすれ違って集落に辿り着いてでもしたら相当まずい事になる」

「そうと決まれば急いで引き返すわ。トゲくん!」

「があっ!!」


 メアはトゲくんの背中に乗り直すと来た道を戻ろうと振り向いた。


 俺とアルジャン、ルージュもそれに続いて一歩踏み出そうとする。



 ――ゴオッ



 すると低く大きな音共に地面が揺れ始めた。

 これもモンスターによるものなのか、それとも。


「くっ!」


 次第に強くなる揺れに遂に立っていられなくなる。

 トゲくんやアルジャン、ルージュも気付けば地面に伏せる形になっている。


「アルジャン、ルージュ! 悪いが取り敢えず2人は武器になってアイテム欄に!」

「「う、うん」」


 最悪の事態を想定して俺は取り敢えず2人を武器状態に戻して、アイテム欄へとしまい込んだ。


「輝明っ! あれっ!!」

「津波か。しかもでかいっ――」


 そんな最悪の事態が正に俺の目線の先で起きていた。


 大きな大きな津波。


 幅も高さも信じられない程のものだ。

 地震はまだ続いてるっていうのに、いくら何でも早すぎないか?


「早く階段へ……。く、これじゃまともに動けない」


 俺は慌てて下の階層へ逃げようとするが、のろのろとしか動けない。

 このままだとあの波に追い付かれる。


「間に合わないわ!! トゲくん、輝明を掴んで!!」

「があっ!!」


 トゲくんは俺の身体に尻尾を巻き付ける。

 強く巻き付かれた所為で苦しいが、もう仕方がない。


「磁力空気泡(マグネットエアバブル)」


 メアはトゲくんの尻尾ごと俺の身体をスキルによって生み出された泡で包み込んだ。


「ここまですれば流される事はないだろうけど……。そうだ、トゲくん私の手に息を」

「があ……」


 メアはトゲくんの体に触れている状態の自分の手を氷の息で凍らせた。


 バラバラに流される事を避ける為に連結部を強化しているのだろうけど、見ているこっちが痛い気さえする。


「くるわ!! 歯を食いしばりなさい!!」


 メアの指示が出たのと同じタイミングで波は凄まじい勢いで俺達を飲み込んでしまうのだった。

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