第149話 招かれる

「うっさいと思って見にきたら、何であなた達がここにいるのよ」

「処刑巨剣エクスキューショナー……って事は一色虹一もここに居ますか?」

「ええっと、今あいつとは別行動中だから。ってそれよりあなた達はここに何の用なの?」

「一色虹一の様子を確認してきて欲しいっていう依頼を受けたんですよ。鶯川さんが心配してたので」

「鶯川……。全部こっち任せて欲しいって念押ししてたのに。はぁ、でも」


 剣は頭を掻きながらため息を漏らすと諦めたかのように俺達を見た。


「それでこの場所はその子達が?って事は……全部お見通しって事なのかしら?」

「ダンジョンここ! コカトリスここのダンジョン!」


 剣がアルジャンに視線を向けると、アルジャンはここにダンジョンがある事を俺達に教えてくれた。


 このタイミングでこれを言えるのはやっぱり子供だからなんだろうな。


「ダンジョンの存在が探索者協会にバレると厄介だから出掛ける時はなるべく気を付けろって言われてたんだけど……。あなた達、余計な事を」


 剣はアルジャンとルージュを睨み付ける。


 あまりの迫力に2人の瞳は次第に潤む。


「あんまり苛めないでやってくれるかな。俺がスキルを使うように頼んだ訳だし、そもそもここのダンジョンの事は俺達も探索者協会に言うつもりはない」

「……本当かしら。新しいダンジョンを見つけたって探索者協会にちくればきっとそれだけであなた達にも報酬金が支払われる。人間はお金が大好きだからね。嘘も裏切りも簡単に……」


 剣の瞳から光が消えた。


「ダンジョンについてバラされるとこっちにも飛び火する可能性がある。俺達はもしもの時、師匠に全部の厄介事を引き受けてもらえるように話しにも来たんだ」


 剣のただならない雰囲気にも物怖じせず灰人は、下衆な事を言い出した。


 ここまで来ると正直すぎて清々しいまである。


「そっちの2人はあいつの……。ふふ、あははははははっ! 師匠が師匠なら弟子も弟子ね! いいわ、あなた達の事を信用してあげる。お茶を出してあげるから中に入って頂戴」


 剣がポケットからリモコンを取り出すと入り口が開いた。


 本当にとんでもない豪邸だな。


「こっちよ」


 敷地内に入ると剣はすたすたと歩きながら俺達を案内してくれる。


 庭には池やら噴水やら誰かの銅像やらがあり、ついつい目を奪われてしまう。

 とりわけ綺麗に手入れされた花や木々は目を見張るものがある。


「もしかしてここの手入れを剣、えーとエクスキューショナーが?」

「エクスでいいわ。私もやる時はあるけど、基本的にはそっちの子達がしてくれるのよ」


 エクスが視線を向けた先。

 そこには給仕服を着た人が2人。


 男性は踏み台を使って木の枝を切り、女性は花の水やりをしている。


「お手伝いさんを雇っているんですか?」

「そういう訳じゃないんだけれど……勝手にしてくれるのよ」


 俺が質問をするとエクスは少し困ったような表情を見せた。


 雇っていないって事はボランティア?

 でもダンジョンを知られたくない訳だから不用意に人を入れるわけないし……。


 んー。

 そういえばあの人達の見た目、日本の人じゃないよな。

 もしかしてホームステイの人って事も……。


「この事も後で詳しく話してあげるから」


 給仕服の人達を見つめているとエクスが仕方ないかといった様子で言葉を投げたので、俺も素直に受け入れて一先ずついて行く事にしたのだった。

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