第139話 エキドナの唾液
「そうだ!ニュース見たよ! A級に昇給おめでとう!」
「あ、ありがとうございます」
「あ、もしかしてあの一件で怪我でも……大丈夫かい?」
「俺は大丈夫です。ただ知り合いがちょっと……」
「知り合い……」
俺が言葉を返すと鶯川さんはちらっと橙谷さんを見た。
「白石君の言う知り合いは俺じゃなくて別の人です。確かに俺もあの事件でこの様ですけど……ぼちぼち元気なのであんまり気を遣わなくても大丈夫ですよ」
「そ、そうでしたか。あ、私鶯川と言います。白石君とはたまたまダンジョンで知り合いになって」
「俺は橙谷って言います。ではあなたも探索者ですか。その、失礼ですがそちらの女性はもしかしてダンジョンで……」
「いいえ。ダンジョンで被害に遭ったわけじゃないです。ただこの病院の医師に父の知り合いが居たのでこちらに」
橙谷さんって結構聞きにくい事をずけずけ聞くタイプなんだな。
それはそうと以前話してくれたのはこの女性の事だろう。
顔色は良さそうだが、痩せ細っていて話し出す気配もない。
こうやって連れ出すくらいだから、病気の方は回復傾向にあるのだろう。
「『妖精の花』が咲いてくれさえすれば、あっという間に完治させられるんだけど……」
「『妖精の花』……。そうですか、まだ」
あれから1ヶ月。
『妖精の花』も既に蕾じゃなくなっている頃かもしれないと思ったが、そんなに事は簡単じゃないらしい。
そもそも鶯川さんが『妖精の花』を持っていたとしてもそれが複数人を治癒出来るアイテムとも限らないんだけれど。
「まあでも、そんなに悲観はしてないよ白石君。『妖精の花』の事はたまたまある人にお願い出来たし、それに今はこれがあるから」
そういって鶯川さんが取り出したのは、変わった瓶に入れられた液体。
普通見かけないであろう形状だがなんだか見覚えが……。
「それはなんですか?」
俺がじっとその瓶を見つめていると橙谷さんが口を開いた。
「これは『エキドナの唾液』っていうドロップアイテム。ポーションよりも回復量が多くて幅広い状態異常にも効きくとか」
「『エキドナの唾液』……ってあのレシピのですか?」
『エキドナの唾液』、それは以前手にした錬金レシピに書かれていたアイテム。
鶯川さんの言うあの人は着実に『妖精の花』に近づいているらしい。
「そう。しかもこれ、病の進行を一時的に止めたり、一時的に症状を緩和させることも出来るんだよ。『妖精の花』を咲かせる『妖精の雫』、その錬金素材はそれだけで高性能ってことみたい。多分だけど入手も相当難しいだろうね」
「症状の緩和……」
鶯川さんの説明を聞き、脳裏に椿紅姉さんに少しだけ効いた薬を思い出す。
症状の緩和、桜井さんが持っていた薬、入手困難、あの人、この瓶の形……。
「あの人って、もしかして一色虹一っていう名前じゃないですか?」
集めたヒントからしばらく探し続けていた人物の名前を俺は口に出した。
「そうだけど、もしかして知り合い?」
「まぁ一応は」
「そうか、だったらちょっとお願いなんだけどここのところ一色君と連絡がとれなくて……ちょっと様子を見に行ってくれないかい?」
「俺で良いんですか?」
「S級探索者が軒並みこの依頼を受けてくれなくてね……。今話題の白石君なら実力的にも安心さ。お願い出来るかい?」
「……分かりました。その依頼、俺が受けさせて貰います」
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