第128話 大量経験値で脳汁がぁ

 黒い物体がこちらに近づいてきた。


 敵意どころかモンスターの気配も感じない。


 俺はそんな黒い物体を興味本位で触れてみる。



「つっ!」



 するとその黒い物体に突起が現れ、噛み付くようにして俺の手に張り付いた。


 そして黒い物体はちゅうちゅうと音を立て血を吸いだそうとし出した。


「こいつっ!!」


 俺が慌ててジャマハダルで急所を突くと黒い物体はあっけなく消えた。

 傷口から血が多く流れているところを見るとヒルの様に血を凝固させ辛くさせる特性があるようだ。


 その異様な見た目からもっとめんどくさい何かだと思ったが、動きも遅いし大した事は――



『+1000000。レベルが91に上がりました』



「えっ?」


 雑魚というかモンスターかも怪しい相手で経験値が100万?


 こんなにうまい経験値稼ぎあっていいのか?


「はぁっ!!」

「くっ!!」


 俺が経験値バブルに心をざわつかせていると、一色虹一の一際大きな声が聞こえた。


 それと同時にアダマンタイトスライムは辛そうな声を上げ、また体を抉られるが即再生。


「ん?」


 その再生のタイミングでまたあの黒い物体が現れた。


 おそらくだが、剣のスキルは身体の一部を抉り消滅、というより身体の一部を他の場所に移動させるものなのだろう。

 しかもそれをを隠蔽する効果も合わせている。


 ただ、今回の相手は再生能力があり、その部分が完全に上書きされてしまう。

 そうすると、隠蔽されていた体の一部分は対象とは完全に切り離され、別個の存在となる。


 だから、再生したタイミングで黒い物体が俺にも見えるようになったのだろう。


 黒い物体、いや元アダマンタイトスライムの身体の一部分だからその特徴は残っていて、吸血行為をするし、経験値も大量に貰える、と考えるといろいろ納得がいく。


 表記に関しては識別の難しいというか、モンスターとしてもアイテムとしても判別が出来ないから表示が無いって事だろう。



 ともあれこれは行幸。



 何故ならこれによって一色虹一がアダマンタイトスライムの体を抉ってくれればくれるほど俺は膨大な経験値を得られるって事だからな。


「『贋物』」


 俺はスキル『贋物』を発動させ、2体の分身を生み出した。


 既に≪透視≫と『即死の影』は発動済みだから、分身にもこのバフはかかっている状態、つまりはアダマンタイトスライムを狩るには十分という事。


「楽しい楽しい高速レベルアップの時間だ。これで2人に……いや、せめてアダマンタイトスライムに一撃入れれるだけの敏捷性を手に入れる」


 俺が合図すると贋物で生み出した分身はそそくさと俺から離れていった。


 分身は自立して行動をとらせる事も命令させることも可能らしい。


『+1000000。レベルが92に上がりました』

『+1000000。レベルが93に上がりました』

『+1000000』

『+1000000。レベルが94に上がりました』


 のっそりのっそりと一色虹一とアダマンタイトスライムの戦う場所から離れ、更にどこかへ向かっていくアダマンタイトスライムの元体の一部を分身達は容赦なく消していく。


 念の為仲間に近づく個体から消して欲しい、分身はそんな俺の考え汲み上げて仲間に近い個体から消してくれている。

 本当に便利なスキルだよ贋物。


 流石にレベル90を過ぎるとこれだけの経験値でもレベルはちょっとづつしか上がらないが、それでも確実にレベルは上がっていく。


『+1000000。レベルが95に上がりました』

『+1000000。レベルが96に上がりました』



「ふふふふ。おっと、いかんいかん不意に笑いが。きっとこれがネットスラングの『脳汁が溢れる』って状態の事なんだろうな」

 

 俺は自分の口を押え笑いを堪えると、アダマンタイトスライムの元身体の一部をあっさり消すのだった。


『+1000000』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る