第112話 チキンレース

「イタイ……。オマエ、ナニヲシタ?」

「なるほど、取り込んだ人のスキルを即時に理解、把握する事は出来ないみたいですね」

「ナニヲシタカキイテイル!!」


 思いがけないダメージに苛立ちを隠せないでいる椿紅姉さん。

 猩々緋さんはそんな椿紅姉さんを見ると息を吐き、やれやれといった様子で説明を始めた。


「『サクリファイスシルド』にはHPの代わりに耐久値、それに物理防御力と魔法防御力のステータスが存在します。この防御力を下回るいかなる攻撃をも無効化し、それを超える攻撃は耐久値の分まで防げます。耐久値と防御力は発動者のステータスによって決まり、レベルの高い発動者であればあるほど強力なスキルとなります。しかし、強力なスキルにはデメリットがあるのが常。発動者は減った耐久値の何割かのダメージを受け、更にはこのスキルを解除出来ません」


 つまり、さっきの猩々緋さんの攻撃が椿紅姉さんの能力を元に作られた盾の防御力を上回った事でダメージを与えられたという事らしい。

 地味な攻撃ではあったが、その防御力を超えるという事は今の殴打は俺が思っていた以上に強力だったのだろう。


「オマエガ、ワタシヲ……。ニンゲンゴトキガワタシノチカラヲ、ウワマワッタ?」

「はい。でも、そんなに悲観することはないですよ。まさか『諸刃の刃』を使ってこの程度のダメージ……。しかも『サクリファイスシルド』は魔法防御力の方が高いっていうのに……ねっ!!!」


 猩々緋さんは一通り説明を終わらせたのか、再び『サクリファイスシルド』を殴打し始めた。


「ウグッ!! クッソ」


 椿紅姉さんは自由に動かせる2つの『サクリファイスシルド』と自らで猩々緋さんを殴りに行く。

 しかし、常にダメージを入れられているその体は少しだけ鈍い。


「『諸刃の刃』での攻撃でもこの程度のダメージですか。防御力と敏捷性を犠牲に攻撃力とスキル効果をアップ出来る私のとっておきのなんですけど……」

「クソニンゲンガ!! コロス、コロスコロスコロ――」



「仕方ありませんか……『グレイス』」



 椿紅姉さんが拳を振り上げた時、猩々緋さんは杖を握っていない方の手を抑え込んでいる『サクリファイスシルド』に向けた。


 すると、『サクリファイスシルド』はゆっくりと膨れ上がり、カタカタと震え始めた。


 それに合わせるように椿紅姉さんの拳はぴたりと手を止め、苦しそうに悶え始めた。



「『サクリファイスシルド』への回復効果は発動者にも反映されます。だから私の『グレイス』も反映される。しかも『諸刃の刃』で効果の上がった『グレイス』なら急速にあなたを苦しめられる」

「ウ、グ……」


 椿紅姉さんは遂に地面に膝を着いた。

 だが、その手を動かす事は止めず、『サクリファイスシルド』は猩々緋さんを攻撃し続ける。


 防御力の下がった体に襲いかかる攻撃と『グレイス』の効果でふらつく猩々緋さんと苦しそうな椿紅姉さん。

 もはやどちらが諦め先に倒れるかのチキンレース状態。


「『瞬脚』」


 俺は攻撃を仕掛けるならここしかないと『瞬脚』を使い、椿紅姉さんの元にか駆け寄る。

 猩々緋さんはそんな俺を見ると少しだけ口角を上げて、今度は椿紅姉さんを見下ろすのだった。

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