第108話 再びの紅
「う、ぐ……」
「柿崎さんっ!」
口からシルバースライムが勢いよく飛び出すと、柿崎さんはその場に倒れ口から血を吐いた。
俺はそんな柿崎さんの口に慌ててポーションを突っ込み、HPを回復させる。
「……」
「……」
そんな中『贋物』で生み出された分身達は無言でシルバースライムを追いかける。
「猩々緋さん、すみませんが柿崎さんのことお願いしま――」
「ぐあっ!!」
俺も分身に続いてシルバースライムの討伐に参加する為に、遠くに見えた猩々緋さんを呼ぼうとした。
しかし、その瞬間俺の目の前に細く赤い一筋の閃光が通り過ぎ、猩々緋さんの腕に傷をつけた。
猩々緋さんが痛みで声を上げるなんて……。
今の閃光をもし俺が受けていれば……。
どさっ!!
額に汗が滲み、唾を飲み込むと今度はさっき勢いよくシルバースライムを追いかけていった分身2体が何かに吹っ飛ばされ、地面に尻を打ちつけていた。
俺は分身達の姿に一瞬目をやり、そのままその先の『何か』を確認する。
「オマエラ、ジャマ」
そこにはあの時見たままの椿紅姉さんの姿があった。
椿紅姉さんはさっき麻痺させて放置させていた男性の頭を掴みながら、その首に涎を垂らしていた。
その姿はまさにモンスター。
「やめろ椿紅姉さん!!」
俺は男性を喰らおうとする椿紅姉さんの元に駆けだした。
そしてそんな俺を追うように分身も追いかけてくる。
「白石君!! 不用意に突っ込んだら――」
猩々緋さんが届くころには椿紅姉さんの攻撃が放たれていた。
腕を刀の様に鋭く変化させ、それを振り払うことで生まれた赤い鎌鼬。
それは凄まじい勢いではあるがギリギリ避けられなくもない。
俺は肌に掠るくらいの覚悟をして足を止めずに椿紅姉さんの元へ突っ込む。
「……」
肌を赤い鎌鼬が掠ろうとした時、分身がそれを庇う様に急に俺の前に現れた。
分身は俺の周りにだけ瞬間移動で出来る能力でも付随しているのだろうか。
「ちっ、邪魔――」
俺は自分の進路を塞ぐ分身に苛立ちを感じて舌打ちをしたが、目の前で起きた事象が分身の行動を賞賛する事になる。
「……」
分身の体に赤い鎌鼬は切り傷を付けた。
そしてその傷口からは炎が吹き出し、分身の体全体をメラメラと燃やし出したのだ。
「くっ!! 『瞬脚』」
俺はその光景に恐怖を感じ、椿紅姉さんの遠距離攻撃を封じる為に更に急いで『瞬脚』で間合いを詰める。
「ワカリヤスイ」
しかし俺の行動を先読みしていた椿紅姉さんは、俺が『瞬脚』で移動した後の場所までも簡単に予測し、移動直後で無防備な俺に膝蹴りを放つ。
「……」
「うぐっ!!」
「……ワズラワシイ」
するとその間に分身が割って入りクッションとしての役割をこなした。
しかしそれでも、膝蹴りの威力は高く、俺は腹に手を当て膝から崩れ落ちた。
「イガイ二カタイナ……。『朱炎刀(しゅえんとう)』」
椿紅姉さんは刀の様に変化させた腕に真っ赤な炎を宿すと、その腕を高く振り上げた。
「お、え……」
俺はその攻撃を避けようとしたが、こんな時にシルバースライムが口から溢れてきた。
その所為で全身に悪寒が走り、嘔吐する気持ち悪さが全身を襲うと俺は動きを止めざるを得なくなる。
「バラバラ二シテ……クウ」
そんな俺のことなど気にする様子もなく、椿紅姉さんは零れ落ちそうな涎を啜りながら、その腕を思い切り振り下ろす。
ただ、俺には幸運にも『回避の加護』が残っている。
多分さっきの膝蹴りは分身がクッションになり、攻撃の対象が分身という扱いになり、『回避の加護』の発動条件を満たさなかったのだと思う。
明確な理由は分からないが、とにかくこの攻撃はなんとかな――
ボァッ!!
「えっ?」
振り下ろされた椿紅姉さんの腕は『回避の加護』のエフェクトを切り裂き、その炎で燃やした。
そして、今度はその腕を俺の首に近づける。
「や、ば――」
「『サクリファイスシルド』!!!」
首が切断されそうになり全身から汗が噴き出すと、背負っていた女性が真っ黒で禍々しい雰囲気の壁を発現させたのだった。
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