第98話 橙谷サイド:半壊
「『バインドアース』」
両手を組スキル名を呟くと、柳の足元の地面が隆起し弦の形状に変化する。
土の弦はそのまま柳の体に巻き付くと、柳の体ごと高く伸びる。
「柳っ!!! 待ってろ俺が今――」
「うがぁっ!!」
「くっ!」
バインドアースで拘束された柳を助けようと日本刀で土の弦に切り掛かる錦だったが、それをさせまいと柿崎が間に割って入った。
錦の日本刀は柿崎の持つ3本の魔法剣で受け止められ、ギリギリと音を立て始めた。
「う、あああぁあっ――」
パンっ!!
俺の体はその攻防に加勢しようと動き始めるも、氷で出来た鳥達によって進路を防がれる。
氷で出来た鳥は口先をこれでもかと尖らせ、1匹、2匹、5匹と次第に数を増やしながら俺の体に向かって特攻してくる。
だが、俺の体には何もダメージはない。
ただただ、氷の鳥はパンっと音を立てながら弾け飛ぶだけ。
その光景は恐ろしい程虚しく感じられた。
「う、ああ……。に、逃げ、桃」
意識を集中させるとほんの少しだけ言葉を発せられた。
伝えたい。攻撃をを止めて逃げろ、と。
その事言葉を誰かが言わない限りたぶん桃は攻撃を止める事はないから。
「くっ。 だったら……」
桃は残っている氷の鳥達を操作し、空中の高き場所にかき集めた。
氷の鳥は1匹の嘴部分に集中して合わさり、次第に姿を変える。
「行けっ!!」
桃が両手を頭上から膝くらいまで振り下ろすと、姿を変えた氷の鳥が俺目掛けて滑空し始めた。
嘴が異様に大きくなっている事からか、それは恐ろしい程速く、風を斬る音が耳を劈くほどだ。
だが、俺の体はそれを避けようとはしない。
むしろそれを受け止めようと右手を高く掲げ、掌をそれに向ける。
パァンっっっ!!!!!
氷の鳥が俺の右手に衝突する。
しかし、その嘴は俺の体を貫くことなく、弾け飛び、轟音を上げながらさらさらと細かい氷の粒となって地面に落ちる。
普通のモンスターなら殆どが瀕死になるような威力はあっただろう。
だけど、この支配された俺の体にはそれは効かない。
その事はこの何分間で理解していた。
なぜなら、俺の体に寄生しているこの『なにか』の意識を本体である俺自身と共有する事で、『なにか』の正体が分かったからだ。
『なにか』の正体はシルバースライム。
魔法スキルでシルバースライム、もといメタル系のスライムにダメージを与えられたという報告は未だに報告されていない。
この体はそんなシルバースライムと同じ強度を保有しており、54階層で『ティアドロップ』を連発してもダメージを与えられなかった事を考えれば、桃の攻撃は全て効かないことが容易に分かる。
「『ティアドロップ』! 『ティアドロップ』! 『ティアドロップ』!」
桃も攻撃が効いていないことは分かっているはず。
だが、見た目に反して負けん気が強いその性格が後退する事を許さない。
虚しく散ってゆく桃の攻撃。
俺の体はそれをあざ笑うかのように平然と前進し、桃の正面に立ち塞がった。
「くっ!! ああああぁあああぁああ!!!」
桃はアイテム欄から普段ほとんど使う事のない剣を取り出すと狂ったように何度も何度もその刃を俺の体に斬り付けた。
「くっそ!! 桃は……。桃はこんなところで負けたりしな――」
どす。
「くはっ!!」
必死な形相を浮かべる桃の腹に強烈な拳で一撃。
続けて顔に膝蹴りを放ち、体勢を崩したところで踵落としを喰らわせる。
すると桃はピクリとも動かなくなり、無防備な状態で地面に横たわったのだった。
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