第81話 スライム流星群

「ごがぁ!?」


 シルバードラゴンスライムは俺の姿が『隠蓑』によって急に消えてしまったように見えたのだろう、驚くような声を上げ、辺りをちらちらと見渡し始めた。

 

 俺はその隙を狙い、『瞬脚』で間合いを詰めると、シルバードラゴンスライムの細長い身体の尻尾の先部分にある赤い点に向かってジャマダハルで攻撃を仕掛ける。

 

「たぁっ!」

「ごがぁっ!!」


 普通のモンスターと違って急所である赤い点部分がひらりひらりと揺らめく所為で狙いは定め辛かったが、それでも無事シルバードラゴンスライムにダメージを与える事が出来た。

 シルバードラゴンスライムの見た目は願いを叶えてくれる龍の神に似ていて、強敵感が強かったがこの程度であれば問題はない。


 はっきり言ってしまえば、ファングヒポモスの方が強く思える。


「畳みかける!!」


 俺はシルバードラゴンスライムが怯んだと同時に再びジャマダハルを急所に向け穿つ。


「ごがぁぁあああぁぁあああ!!!」

「ちっ!」


 しかしシルバードラゴンスライムは危険を察知し、慌てて空中高く飛び上がり攻撃を躱して見せた。

 

 飛行能力のあるモンスターはこれだから厄介だ。

 魔法使いみたいな広範囲で攻撃出来る職業であればこういった敵に対しても上手く立ち回れるのかもしれないが、俺にはその術がない。


「だがそっちもそこからじゃ何も出来ないみたいだな」


 シルバードラゴンスライムは空中に逃げたはいいが依然として俺の姿を捉えられず、キョロキョロと辺りを見回している。

 

「ご、が……」


 共に攻められない状況。

 運悪く毒が決まらなかったのも痛い。

 『毒の神髄』を使って毒が決まらなかったのは思い返せばこれが初じゃないか?


「ごがぁぁあああ!!」


 そんな状況に苛立ちを覚えたのかシルバードラゴンスライムは雄たけびを上げた。

 イライラしているのはこっちも同じだというのに。早く降りてこ――


「「「きゅっ」」」

「他のスライム達が……」


 雄たけびと同時にシルバースライムとレッドメタリックスライム、それにひっそりと隠れていたレッドメタルスライムの三種のスライムがふよふよと宙に浮かび上がった。


「ごがっ!!」

「マジかっ!!」


 スライム達は一定の高さまで浮かび上がると、その身体を引き延ばし、空中から反動を利用して体当たりを仕掛けてきた。

 シルバードラゴンスライムが号令の様に声を発し、そこからのこの展開。

 どうやらシルバードラゴンスライムにはスライムを操るようなスキルが備わっているようだ。


「ぐっ!!」


 無数に降り注ぐスライム達は流星群のように流れ落ち、次々と地面にクレーターを作ってゆく。

 普通の体当たりと比較にならない程の威力。当たったらそれなりのダメージを受ける事になる。

 しかも、攻撃を受ければ『隠蓑』のデメリットである硬直状態の付与が発動してしまう。

 一応『回避の加護』は発動しているが、ここはなんとしてでも全弾躱さなければ。


「くっ! 速いっ! 時間は……あと15秒」


 こうなってしまえば『隠蓑』が発動していない方が都合がいい。

 俺は表示されるカウントを見ながら、凄まじい速さで落ちてくるスライム達をなんとか躱す。


「5、4、3、2、1……0!!」


 カウントダウンを終え、隠蓑の効果が消えた。

 しかも攻撃は止み、俺は一先ず安堵の息を溢した。


 しかし……。


「ごがぁっ!!」

「なっ!!」


 俺はいつの間にかシルバードラゴンスライムに背後をとられていた。

 シルバードラゴンスライムはその口にを大きく開くと、その口に鋭い牙を生やす。


「『瞬きゃ――』」


 慌てて『瞬脚』でシルバードラゴンスライムの攻撃を回避しようとしたその時。



 パク。



 シルバードラゴンスライムは俺の身体の周りを飛ぶ『回避の加護』による白い光の玉を食ったのだった。

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