第76話 A級3位
「終わったか?」
「ああ。って待っててくれたのか?」
「一応橙谷に白石の声聞かせる」
桃ちゃんの使った魔法紙でダンジョン外へ出ると俺はいつもの様にドロップ品を売却した。
桃ちゃんはそんな俺を遠目から見ていたのか、売却の終わるタイミングで再び声を掛けてきたのだ。
プルルルル、プルルルルル、ガチャ。
桃ちゃんの持っていたスマホから音が聞こえだす。
スピーカーをオンにしてるのか、その音は周囲に丸聞こえ。
「橙谷、桃だ」
『おう! すまんな面倒な頼み事しちゃって。それで、白石君は?』
「横にいる。やられそうだったし、ボロボロだった」
「え、えっと、どうも、白石です」
最悪のバトンパスを受け、俺はスマホから少し離れた所からいつもより声を大きくして挨拶をした。
幸いこの時間、このビルには人がほとんど居なくて恥ずかしさはない。
『無事だったか! いやぁ、ランクの変動もないし、スマホで連絡しても全く返事がないし、心配したんだぞ』
「すみません。気が回らないくらいてんやわんやしてたので……。それにしてもよく俺の居たダンジョンが分かりましたね」
『ちょうどある店の店主が白石君っぽい人の話をしてるから、もしかしてと思って聞いてみたんだ。そうしたら、しばらく【重獣】に籠るとかなんとか……。ランクを上げるためとはいえ、あそこは57レベルの白石君には荷が重すぎる。せめて、スキルポイントやジョブポイントの取得が増えるレベル60を過ぎてないと――』
「確かに最初はきつかったんですが、レベルももう70になりましたし、そこまで心配して頂かなくても大丈夫ですよ。いや、でも、最後はちょっとヤバかったか……」
『……レベル70? 今白石君はそう言ったのかい?』
「はい。やっと。隠しフロアの経験値稼ぎが大分効いたみたいで――」
『いやいやいやいやいや、やっとって、白石君、そのレベルアップは早すぎる。異常と言ってもいい。ふふふふふ。まだ残り数日残ってるが実力は十分そうだな。問題のランクの方は上がりそうなのかい?』
「依頼はそこそこな数をこなしたので今から報告して、明日には順位が上がってるかと」
『そうかそうか! それじゃあ明日のランクの反映を楽しみにさせてもらうよ。いいかい、焦る気持ちは分かるが無理だけはいかんぞ。それと今回の件が終わるまで俺からの着信があったら出るか、折り返し連絡するように』
「分かりました」
『ん。そんで桃、今回の報酬はまた明日俺がダンジョンから帰ってきてから手渡す。昼には連絡出来ると思うから絶対電話出てくれよ』
「了解」
『もしかしたら俺や桃よりも白石君の方が先にS級に上がれ――』
「桃はA級の3位。レベルも3桁。流石に比べ物にならない」
『ははははっ!! ムキになる桃は久しぶ――』
ツー、ツー、ツー。
桃ちゃんは唐突に通話を切ると、頬をぷっくりと膨らませながら不機嫌そうにこちらを見た。
「白石。桃覚えた。でも残念。桃はもっと早く上に行く。じゃ」
桃ちゃんはそう言い残してその場を去った。
あの見た目で橙谷さんよりもランクが上だったのか。確かに強かったけど、意外だ。
「さて、依頼の報告を済ませるか」
俺は重たい脚で階段を上り、2階の受付に目を向けた。
「うーん……。どうやったらこんな依頼を受けて貰えるか……。やっぱりお金かなぁ」
「鶯川さん?」
「あれ、君は……」
するとそこに居たのは白い紙をはためかせながら、悩ましそうに頭を傾げる鶯川さんの姿だった。
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