第54話 進化

「いらっしゃい! なんだ? 今日はいつにもまして神妙な面持ちだな」


 俺と橙谷さんは話がまとまると部屋を出た。

 というよりも邪魔者を弾くように追い出されたの方が正しい表現だろう。

 俺達が定例会議の邪魔になるのは分かるが、もうちょっと言い方っていうものがあると思う。


 そして、その後俺は橙谷さんと少し会話をして忠利の店に来たというわけだ。


 今日は灰人の姿が見えないが、まだ家で休んでるのだろうか?


「それが、ちょっと大変な事になってな」


 俺は忠利に事の顛末を話した。

 忠利は俺の話を聞きながら、うーんと唸る。


「やっぱりきついよな、B級」

「1週間でとなると相当きついぞ。レベル上げをするだけならまだしもランク上げもしないとならないとなると、今潜ってるようなダンジョン、それに伴う依頼程度じゃ確実にタイムオーバーだろうな」

「ダンジョン【蟲】とかの依頼でもきついかな?」

「正直そこの依頼難易度だと数をこなしてもきついと思う。危険かもしれないが【重獣(じゅうじゅう)】に潜る必要があるかもしれない」


 ダンジョン【重獣】はその名の通り重量級のモンスターが溢れるダンジョンで、一般的な動物でいうところのサイやカバ位のデカさのモンスターがわんさか出てくるらしい。


「あそこの推奨ってB級以上だっけ? 経験値も美味いのか?」

「経験値は1体辺り100とか200はあるんじゃなかったかな。ただ、耐久力がある分効率は悪い。それに奴らはスタンスキルを持ってる。敏捷性の低い低レベルな探索者だと攻撃を避けれなくてスタンからのなぶり殺しだな」

「敏捷性には自信がある。それと耐久力に対しては……もっと攻撃力の高い武器が必要か」

「おっ! シルバースライムっていう言葉を聞いたときからなんとなく察してはいたが、これがシルバースライムの心臓か」


 俺はアイテム欄からシルバースライムの心臓を取り出し、忠利に見せた。

 ジャマハダルの進化に必要な素材はこれとレッドメタルスライムの魔石10個。

 俺はいつの間にかこれらの素材を全て集め終えていたのだった。


「レッドメタルスライムの魔石が10個とジャマハダルも渡しとく。進化ってどれくらい時間が掛かるんだ?」

「さぁ? 実はやってみた事がないからなんとも……。鍛冶屋のスキル後に完成時間が表示されるから、それを見るしかない。もし、何日かかかるようでも一旦スキルを使うと中断出来ない。もし、今進化させるとなると場合によっては一週間後に間に合わないかもしれないぞ」

「でも、かなり強くなるんだよな?」

「攻撃力でいえば2倍以上にはなるんじゃないか? それにスキルが付与される可能性もある」

「最悪の場合、もう1つジャマハダルを作ってもらうってことも出来るか?」

「それは構わないぞ。むしろその方がこっちとしては儲かる」


 寄生されているとはいえあの椿紅姉さんを相手にするわけだから、出来るだけの事はしておきたい。

 それに金はドロップ品の売却でそこそこ稼げているし、ミニドラゴンスライムの魔石納品依頼分もこの後受け取れる。

 

 思い切って進化させるか。


「金に糸目はつけない。進化を頼む」

「まいどありっ! 進化費用は武器作成の半分で5万円になる。おっと、そういえば前頼んでた武器も出来てるぜ」

「それは……。桜井さんがここに来た時に渡してくれ」

「……了解。じゃあいつも通り先払いを頼む」

「5万……一応確認してくれ」

「はいよ。1、2、3、4、5。確かに頂戴した。それじゃあ早速時間の確認をするからちょっと待っててくれ」


 忠利はにこにこしながらジャマハダルと素材を持って店の奥に消えた。

 桜井さんには武器の受け取りをして欲しいと後で連絡を入れとくか。

 正直なところ最近桜井さんが俺にやたら気を遣う所為で、なんだかこっちまで申し訳なくて、何となく距離を置いているのだ。


「はぁ……今思うと桜井さんが家で呑んだくれてる時ってかなり楽しかったな」


 俺は天を仰ぎながらポツリと呟いた。


「待たせたな輝明」

「時間確認だけにしては結構遅かったな」


 そうして待つこと15分。

 忠利は焦るようにして戻ってきた。


「それが遅かったが、遅くなかったんだよ。これを見てくれ」


 俺は忠利のよく分からない言葉を無視して、その手を見た。

 両手の上には白い布で覆い被さったなにか。


「もしかして……」

「その通り」


 忠利が白い布をばさっと捲るといつもの赤い刀身と手元が新たに赤と銀のグラデーションに変わったジャマハダルのがあったのだった。

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