第18話 変わる瞬間
「じゃあ作戦実行で。多分大丈夫だと思いますが攻撃されそうになったら逃げてください」
「はいですわ」
俺は桜井さんに作戦を伝えるとミニドラゴンスライムを見つめ走り出した。
「はぁっ!」
「ごはぁあああぁ」
俺が懲りずに正面からミニドラゴンスライムに突っ込むとさっき味を占めたのか、同じようにして電気の塊を吐き出した。
ミニドラゴンスライムの動きは速いが、塊はそこまで早くない。むしろ遅い。
俺は後ろを気にしながらゆっくりとそれを躱す。
「きゃあーーーーーーー!! しーびーれーるー!!」
躱した先の方から桜井さん渾身のやられボイスが轟いてきた。
とんでもない大根芝居だ。
ただ相手はミニドラゴンスライム。演技の上手い下手はそこまで関係ない。
「ごあっ! ごああっ!」
ミニドラゴンスライムはやられた姿をわざわざ近くで見る為なのか、やはり桜井さんの方へ向かって行った。
攻撃を仕掛ける様子はない。
しかし、念には念なのか絶妙に反撃を受けない距離をとっている。
「やっぱりな。作戦通りだ」
その隙に俺はミニドラゴンスライムの背後辺りに急いで移動する
出来るだけ気付かれて逃げられないように少し距離を置きながら。
「……よし」
そして、予め準備していたスマホの画面をタップし、桜井さんへコールする。
「『ヒール』」
すぐさま自分自身に両手を当て、『ヒール』を発動させた桜井さん。
光に包まれ、霧が晴れるとミニドラゴンスライムはやはり動きを止めた。
「ごぁああぁっ!」
ミニドラゴンスライムは桜井さんからの攻撃を恐れたのか、ふらふらと後ろに後退しだした。
流石に桜井さんが武器を持っていないことには気付かれなかったみたいだ。
「今っ!」
俺の声に反応して後ろを振り返るミニドラゴンスライム。
だが時すでに遅し。
俺は桜井さんに借りた鞭を両手で持ち、それでミニドラゴンスライムを羽交い絞めにした。
ここでジャマハダルで攻撃しても良かったのだが、結局のところ1発で倒せないとなっては警戒され、ずっと遠距離から炎だの雷だの攻撃されかねない。
であればこうして捕まえる他無いと思い至ったわけだ。
「ご、あ、ぐ、あ」
「こうすれば技も出せないか?」
俺はミニドラゴンスライムの口に鞭を食い込ませ後ろで括ってやると、そのまま地面にミニドラゴンスライムを叩きつけた。
それでも桜井さんの攻撃よりも若干ダメージが多いだけ。やはり、ジャマハダルで急所を突く他はない。
「やりましたわね! どうでしたか、私の演技は!」
「それよりこれ持っててください!」
「は、はいですわ」
俺は嬉しそうに近寄ってきた桜井さんに鞭の手元を掴ませると、ジャマハダルを取り出した。
「まぁ、これはまるで犬の散歩ですわ、ねっ!」
「ナイスです。桜井さん≪透視≫」
桜井さんは鞭を持つと勢いよくそれを振り回し、最後はミニドラゴスライムを地面に叩きつけた。
そこを狙って俺は≪透視≫で急所が見える眉間を狙い、ジャマハダルを突き出した。
「ご、あ」
「まだまだ」
俺は何回も会心の一撃でミニドラゴンスライムを突いた。
相当な体力があり、なかなかHPゲージは大きくは減らない。それでもHPゲージが紫色に変化し、十分に倒せるだけのダメージを稼ぐことは出来ている。
やはり、拘束して正解だった。
「ご、あ、あがっ!」
HPが残り1/3を切ると、ミニドラゴンスライムは今までと異なる声色で鳴いて見せた。
すると地面から赤い点が湧いて出てくるのが見えた。数は8。情報通りこいつも召喚術を使えるみたいだ。
内4つは桜井さんの元に移動している。これは間違いなく奴。スルースライムだ。
この霧と認識阻害が合わさって確実に相手を倒す死のコンボとでも言いたいのだろうが、これだけ近ければ霧で姿が消える事もない。
それに俺の≪透視≫は間違いなくコイツらの弱点。相手が悪かったな。
「はぁっ!!」
「えっ! あっ!」
俺はまず4匹のスルースライムを瞬殺した。するとそのおかげで桜井さんがスルースライムの存在に気付き声を上げた。
「桜井さんはそのまま下がって下さい!」
「分かりましたわ!」
桜井さんは状況を察してくれたようで、そのままミニドラゴンスライムを引っ張りながら後方に下がった。
「いたっ!」
俺はそれを確認すると辺りを見回し、取り敢えず近くにいた3匹を片付けた。
あと一匹、あと一匹が見つからない。
「何だかこの子、様子がおかしいですわ」
俺は桜井さんの声を聞き、ミニドラゴンスライムを見た。
すると、その近くに最後のスルースライムが。
そして、ミニドラゴンスライムには30階層で出会ったあいつ程ではないにしろ、かなり大きな黒い点が映っていた。
唸るようなミニドラゴンスライムの口から、そいつはにゅるりと顔を出し、近くにいたスルースライムに触れた。
「こいつ、こっちに寄生する気か!」
寄生されたスルースライムはあっという間に黒い点に飲まれると、その身体に赤く光沢のあるメッキを浮かばせるのだった。
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