異世界の軍学校で首席を目指してみた件
高雄摩耶
第一章 軍学校の少女たち
第一話 出会い①
艶のある、栗色のツインテールが特徴的な少女だ。年齢は15、6歳くらいで、学校制服のような紺色の服を着ている。白く艶のある綺麗な肌をしており、透き通るような瞳で、無言のままこちらをじっと見つめていた。
「えーと……?」
なぜ目の前に少女がいる?いや、そもそも今どういう状況?
視線を外し、自身と少女を交互に見る。そして、一瞬息が止まった。
「っ!?」
両手両足を地面につけ、少女はその間で寝転んでいる。つまり裕二は、少女に覆いかぶさるような体勢になっていた。側から見れば、まるで裕二が少女に襲いかかっているように……。
裕二は焦った。まずい、明らかにまずい状況だ!なぜこうなったのかわからないが、今彼女が大声を出そうものなら……絶対に誤解される!
「……」
少女はといえば、まばたきもせず無言のままだ。しかしそれが、一層焦る気持ちを増幅させた。
と、とにかく何か言わないと!
そう考えたが、まるで思いつかない。まずは謝罪すべきか?それとも容姿を褒めるべきか?はたまた無言を貫き通すか?
落ち着け…落ち着いて考えるんだ!少女にとって、当たり障りのない一言を……よし。
意を決し、できる限りの笑顔を作る。そして、
「お、俺って実は、ミリオタなんだ」
「………は?」
な、ななな何言ってるんだ俺ぇ!?
確かに俺はミリオタ、つまりミリタリーオタクであることは間違いないけど……。自分の趣味をカミングアウトする必要なんてなかっただろ!だいたい、当たり障りのない一言で、いきなりで趣味の話をする俺って……うあぁぁぁ!!
頭の中か真っ白になり、何も考えられなくなる。彼女にとって意味不明なことを言ったばかりか、誰にも話したことのない自分の趣味を暴露してしまったのだ。少女はもとより、自分自身に精神的ダメージを与えてしまうという致命的なミスだ。
案の定、少女は顔を強張らせ、「何言ってるんだ」と目で訴えて来る。裕二にはもう、それに答える勇気は残っていなかった。
しかし少女は、なぜかすぐに可愛らしい笑顔を見せた。
「へーそうなのー。あんたの言う『みりおた』とかいう物が何か知らないけど、勉強になったわ」
あれ、納得してくれてる?
なぜ納得してくれたのかはわからないが、とにかく続けるしかない。裕二は少女に覆いかぶさったまま話を続ける。
「み、ミリオタっていうのは、こう…
「へーそうなんだー」
「お俺は特に海軍の軍艦とかが好きで。昔の『扶桑』っていう戦艦なんかのプラモデルを作ってさ…」
「へーそうなのねー。じゃあ私が好きな事も教えてあげるわ」
「えっ……」
会話を終わらせまいと夢中で話す裕二だったが、それを彼女の一言が止めた。まさか少女の方から話してくるとは思いもよらなかったのだ。
うまく話を進められれば、この状況を切り抜けられるかもしれない。そんな気持ちで、裕二は少女に聞いた。
「君の、好きな事?」
「そう。私の好きな事はね……私に痴漢行為をしようとする犯罪者の、生きる資格を無くすことよ!この……変態があぁぁぁ!!」
「うわあぁぁぁ!!」
やっぱ全然納得してなかった!
驚いた裕二は勢いよく立ち上がり、そのまま後ろへ倒れこむ。
ゆっくりと立ち上がる少女。彼女から笑顔は消え、目元に影を落とし、怒りに満ちた薄ら笑いを浮かべた。
「ふふっ……。この私に犯罪行為をしようだなんて、いい度胸じゃない」
「ち、違うんだ!目の前にいきなり君が現れたから、結果的に……」
「結果的に襲い掛かったわけ?」
「そうじゃなくて、俺はずっと家にいたはずなんだ。なのに気がついたら、目の前に君がいたんだよ……」
なんとか誤解を解こうとするが、むしろそれが少女の怒りを買ってしまった。少女はゴミをみるような目で裕二を睨めつけてくる。
「そんな言い訳が通じるとでも思ってるの?あれはどう見ても痴漢しようとしてたじゃない!気持ち悪い作り笑顔で『俺はミリオタなんだ』とか訳わからないことペラペラしゃべて。随分とお楽しみだったみたいね……この変態!」
「それは、誤解されないようにと思って……」
「うるさい!どんな理由があろうと、私たち
ヤバい。このままだと死ぬ、絶対死ぬ!早く逃げないと!
本能的にそう察した裕二は、少女の叫び声から逃れるように飛び起きる。そして、「待ちなさい!この変態!!」という少女の罵声を背中に受けながら、裕二は一目散にその場から逃げ出した。
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