第12話 シエル嬢、買い出しを希望する
シエルさんの熱い思い出話を聞き終わったところで、何食わぬ顔でロッテさんが戻って来た。
――とはいえ、炎上して再建途中のお城には寝る場所すら無い。
そうかといって、シエルさんは氷の城には絶対行きたくないらしく、寝床の確保をどうするか悩みまくっている。
「どうしましょ、どうしましょ……わたくしが良くても、ケンセイさんのお腹を冷やしてしまったら涙が止まらなくなりそう」
「俺はその辺の草の上でも大丈夫ですよ?」
「わたくしが認めませんし、認めるわけにはいきませんの。でも、お城が整うまではかなり時間がかかるし……はぁぁぅ」
いわゆる野宿でも構わないと思っているが、シエルさんは許してくれないみたいだ。もしくは、氷の城以外の城を頼るのもいいかもしれない。
そう思っていたら、「他の城はまだ早いですわ!」と一蹴されてしまった。
何が早いかは不明だが、ロッテさん曰く魔王の儀式的なものが関係しているのと、他の城の魔王は個性的すぎるので急がなくてもいいらしい。
「――で、どうすんだ? クマはその辺で寝てもいいって言ってんだぜ? 魔物と部下どものことを心配してんなら、あたしがクマを守ってやっても……」
「いいえ、ケンセイさんはわたくしが責任を持ってお守りするの! ロッテは自分の城に帰ればいいじゃない!」
「責任っつってもな」
姉妹仲は良くないようで、意見の食い違いでお互いにヒートアップしまくっている。こんな状況に俺なんかが割って入ることは、不可能だ。
それにしても、魔王城の外に出るようになってから気付いたが、昼から夜になるのが、もの凄く長い気がしてならない。
この辺りだけで判断すれば、やはり人間と違う時間の流れなのだと実感する。
時差のようなものかもしれないとはいえ、人間社会に戻ったらどういう時間の流れになるのか非常に気になってしまう。
魔王城の周辺は普通に町があって、魔物たちが普通に歩いている以外は特に変わらないものの、時々訪れる戦士らしき格好の人たちは一体どこから来ているのか。
「ケンセイさん!!」
「おい、クマ!」
二人がヒートアップしている中、辺りを気にしていると、二人から声がかかった。
また何か問題でも起きたのだろうか。
「えーと、何かな?」
「ケンセイさん。わたくしと一緒に、買い出しに行きませんこと?」
「えっ? 買い出し……? それって――」
もしや俺のことを気遣って、食材や食器なんかを買いに行ってくれるのでは。
こっちの辺境――いや、魔王社会にそんな場所が存在するのか。
「おぉっと、クマ。お前はあたしと遊びたいよな?」
「あ、遊びですか?」
「おうよ! お前は知らないだろうが、こっちにだって娯楽はあるんだぜ? ただし、魔王のフリーパスが必要だ。あたしと一緒なら、お前も入れるぜ!」
「フリーパス……って。ううーん、娯楽ですか」
二人の提案は色んな意味で興味深い。
しかし城が燃えた時に全て焼失した食材や、食器なんかを少しでも戻しておきたい気持ちがある。
そう考えると、遊んでいられない気持ちの方が強い。
「すみません、俺は店のことを考えないと駄目な気がするので、ロッテさんとの遊びはお預けで!」
「何だ、そうかよ~。ったく、クマは真面目過ぎるぜ。ま、そこが可愛い所ではあるんだけどな!」
「すみません、本当に」
「んじゃ、あたしはあいつの城にでも行って来るとするわ! 後でクマにとっても必要な城になるだろうからな。じゃあ、行って来るぜ!」
何やら気になることを言い放って、ロッテさんはふらっとどこかにいなくなった。
シエルさんは他の城のことは考えなくていいですといった表情を見せているが、魔王同士の繋がりは薄かったりするのだろうか。
「コホン。コホンコホン……ケ、ケンセイさん。もしよろしければ、わたくしと買い出しの旅へ参りませんこと? もちろん、身の安全は責任を持ちますわ!」
何だか気恥ずかしそうにしている。
そんなシエルさんの希望を断れるはずも無い。
魔王社会で買い出しに行くとしたら大いに興味が湧くが、どこへ連れて行ってくれるのか。
「もちろん、いいですよ! シエルの希望の所に行きます」
「きゃうぅん!! う、嬉しすぎますわ!!!」
――気のせいだろうか。
出会い始めの頃よりも、シエルさんの見た目や態度が若返っているような気がする。
魔王だからそう見えるだけかもしれないとはいえ、何だか不思議と魅力が溢れているような、そんな気がしてならない。
「じゃ、じゃあ、どこへ行くのか聞いても?」
城の再建は、完全に部下の魔物たちに任せるみたいだ。
どれくらいで再建出来るかによるが、どうやってその場所に行くのか気になる。
「ケンセイさんの世界……ではなくて、ええと人間たちが暮らす場所でお買い物がしたいですわ! ケンセイさんとご一緒なら、きっと楽しくなるのは間違いないですもの!!」
「――えっ! それって、つまり……」
「ええ! ケンセイさんがお引越しする前にいた場所ですわ! そこに行きたいですわ」
これは予想外の返事だ。
てっきり魔王社会から帰れないと思っていたのに、魔王嬢からの希望だとは。
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