王女マリエラの婚約
哀原深
プロローグ
魔法の芽吹く国、エルランス。
今日はその国王の一人娘で王女であるわたし、マリエラが婚約の契りを交わす日。
王城の一角、誓いの間の名を持つ豪奢な小広間で、わたしは机を挟んで婚約者と対峙していた。
わたしと婚約をするのは、王弟の嫡男で従兄妹でもあるゼウン・ヴィデーンだ。
部屋には、互いの家族がそろっている。
両親である国王と王妃に視線を投げれば、微笑とともにひとつ頷いてくれた。
「王女マリエラと、王弟嫡男ゼウン・ヴィデーンとの婚約を、今ここに認める」
朗々とした国王の宣言のもと、婚約を誓う契約書が差し出された。
わたしはペンを持ち、呼吸を整える。
国王に向き直った。
「恐れながら国王陛下。わたくしはこの婚約の書に名を記す事はできません」
わたしの発言に、王はぴくりと眉を動かし、向かいに座る王弟一家は動揺を隠す事なく声を上げた。
――約一年前――
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