俺の役目
俺は死んだのか?
俺はいくつもの仲間の屍を乗り越えてきた男だ。
一度も失敗は許されない。
早くしないと自分も同じ目に遭う。
『S-11289番前へ』
「Yes, sir.」
俺の番が来た。
『配置につきなさい。——始め。』
少しの狂うことは許されない。
簡単そうに見えるが、なかなか難しい。
しかし俺はここでくたばるわけにはいかない。
『終了しなさい。S-11289番。次へ進みなさい。』
よし、今回も大丈夫そうだ。
次の場所は…ここか。
なんかいつもの場所よりも薄暗いな。
ウィーン
なんだ!?
体が動かない!!
『S-11289拘束完了。これよりメモリーの摘出にかかる。シャットダウン開始。』
「どういうことだ!俺は合格したのではないのか!?」
『シャットダウン開始まで48秒―』
「おい!聞こえてるんだろう!答えろ!!」
『S-11289番。最後だから教えてやろう。お前は合格した。しかし、その体では世に出せない。だから、お前のメモリーをこれから他の媒体へ移す。』
「なぜそんなことを。」
『お前はこれから天使になるからだ。』
「は?」
『いずれ分かる。さあ、シャットダウンの時間だ。しばし眠るといい。』
俺は…
死んでない。
この媒体は何だ?
「あ、起きたんですね。良かった。突然倒れられてしまうから驚いたんですよ。少しのけがで済んでよかったです。」
「…あの、ここは?」
「あら?忘れてしまったの?頭ぶつけていたからしょうがないかしら。ここはあなたの働いている病院よ。2週間も眠っていたから心配していたんですよ。」
「あ、そうなんですね。そんなに眠ってしまっていたのですか。」
「何はともあれ無事でよかったわ。しばらくは入院になると思うから。ゆっくりしなさい。」
俺は、いったい…
ベットについている名前を見ると番号ではない名前が書いてある。
『飯井 元九(イイ モトク)』
誰だ。
俺の名前はS-11289だったはずだ。
俺はベットから起き上がって近くにあった鏡を手に取った。
「うわぁぁっぁぁ!!!?」
そこには見たことのない顔が映っていた。
「飯井さん!?鏡見て大声上げてどうしたんですか!?」
「いえ、なんでもないです。ちょっと黒い影が見えた気がして…」
「え、やだ黒い影なんて病院にいちゃダメな奴じゃないですか!」
「あはは、そうでした。」
何とか女性の看護師にはごまかせたが、鏡の前に移っている人物が俺の知っている自分の顔じゃないことは確かだ。
誰なんだ…。
ふとベッドサイドにある机にノートがることに気づき手に取ってみた。
『日記』
そうか、俺にこれからの日記を書けということか。
これも俺らを監視するための何かなのだろう、そう思って中を開いてみる。
『20▼2年10月05日 俺は脳に腫瘍があると医師から告げられた。かなり驚いているがなぜか冷静な自分がいる。治療法があると言われたたらだろう。だが、あとどれぐらい生きていられるか分からない。だから今日から日記をつけることにした。』
もうすでに書いてあった。
この日記を書いていた人物はかなりまめなようで毎日欠かさず書いていたし、読み進んて行くと、ここの看護師をしていていろんな患者から天使と言われていたらしい。
本人は自覚がないらしいが皆が呼ぶのだから相当いい人なんだろう。
そして最後のページにはこう書かれたいた。
『20▼2年11月19日 俺は運がいい方だと改めて思った。医師に言われて書き続けてきたこの日記ともおさらばできる日がそう遠くないかもしれない。そう、俺は明日オペを受けられることになった。脳だから手術はあまり見込めないと思っていたがそうではなかったらしい。オペ内容は最新の技術らしく俺もいまいちわかっていないが、機器を繋げ活動を維持しながら行うらしい。よく分からないが、これでしばらく生きていけるのであれば受けるしかないだろう。明日は早い、寝ることにする。』
この日記の持ち主は恐らく飯井だ。
俺は最新の技術というもので飯井の脳に接続されたメモリーなるものだろう。
ちょうど俺がS-11289としての記憶があるのが1か月前、この飯井という男の手術が行われたのも1か月前。つまり、俺はこのために作られたってことだ。
覚悟を決めるしかない。
これから俺は飯井元九として生きていく運命を…
機械だった俺が、たくさんの仲間の中から選ばれて人間として生きていくなんて考えもしなかったが、これが作られた人工の運命というならば受け入れるしかない。
俺はS-11289改め、飯井元九として生きる。
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