バーミヤン

轟音

は聞こえなかった

画面のなかの巨大なそのひとは 白茶けた粉塵に包まれた

狂暴な歓喜の声が足元を揺るがして

岩肌にくりぬかれた そのひとの微笑みが崩れ去る


画面の向こうから衝撃波が胸を叩いて 私は咳き込んだ

爆発の砂塵が 鼻から口から入り込む

時の海溝に絶え間なく引きずり込まれる過去を

かろうじて伝える遺跡だった

激しい喪失の痛みが

単なる岩壁の凹凸にすぎなくなった、仏像の体に張りついている

もうもうと立ち上る砂塵が 陽光を遮って

確かに存在していたかつての生活の影を薄れさせる

3Dプリンターでは再現できない

一度限りの営みの積み重ねは ただの岩の破片になった

古代の空を写した天井画の青が 千々に砕けて

砂礫に突いた私の剥き出しの膝に突き刺さる

悔しい

涙さえもこぼれない、眼球の表面がはがれそうな乾き

怒りを伴って噴き上がる悲しみに 肺が圧迫される

私が知るより以前に 奪われてしまった遺物

守りたいと思ったときにはすでに

この世界のどこにもなかった微笑み

バーミヤン


悔しさの塊が胸の辺りを退いて

頼りないがらんどうが ぽっかりと口を開ける

どうして気づかない?

風が 征服に酔った無法者の耳にささやいて

一瞬のうちに地平へ過ぎ去る

暴力的に破壊された遺跡の映像が こんなにも不安を呼び覚ますのは

いつか 私たちの生きた名残もこうやって

爆風とともに消し去られることを 予感するからだ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る