第116話 何をもって正義か

 ヴィムはボスの女を縛り上げた。


「起きてくださーい」


 女の頬をペチペチする。

すると、女は目を覚ました。


「貴様、私をどうすつもりだ?」


 鋭い眼光で女はヴィムを見つめる。


「殺してやりたいよ。でも、俺が決めることではないかな」


 ヴィムはマジックバッグの中から、片手で扱うのにちょうどいいサイズの剣を取り出した。


「ハナ、決めていいぞ」


 その剣を渡してヴィムは言った。


「え、私が、ですか……」

「ああ、俺よりハナが決めてくれ。俺は、俺の中で決着をつけたつもりなんだ」

「わかりました」


 そう言うと、ハナは剣を受け取った。


「ここで、私が殺さないという選択をしたらどうなるのでしょうか?」

「犯罪奴隷になるか、無期限の禁錮刑になるか、死罪になるかだな」

「そうですか」


 ハナは一歩ずつゆっくりとボスに近づいた。


「私を殺した所で終わりではないぞ」


 地面に転がっている女は言う。


「私は、あなたのことが許せません! 今まで、どれだけの人の人生を狂わせたと思っているんですか!!」


 ハナの目は怒りと悲しみ、憎しみに満ちている。


「はぁぁ!!!!」


 ハナが剣を逆手に持つと大きく振りかぶった。


 しかし、その剣は女の体ではなく、ただ地面に突き刺さっていた。

ハナの目には一筋の涙が流れる。


「ごめんんさい……」


 そう言って、ハナはヴィムの元へとやって来た。


「いいんだよ。それが、ハナなりの決断だったんだ」


 ヴィムはハナの体を抱き寄せた。

そして、静かに頭を撫でる。


 その間、ハナはずっとヴィムの腕の中で泣いていた。


「昔な、俺の師匠が言ってたんだ。正しいことのために戦うのは罪じゃないって」


 ハナはヴィムの言葉をただ静かに聞いている。


「でも、それは正しいと思ったからって殺人をしていいってのには繋がらないと思うんだ。俺たちの私的な感情でさ」

「はい……」

「たとえ、どんなに悔しくても、殺人という復讐手段をとってしまったら、俺たちがやっていることって、相手と同じレベルまで落ちちゃうと思うんだ」


 復讐は復讐の連鎖を産むという言葉もある。

そこが、法律によって統治されている国なら、復讐という殺人を認めたら、法律のない修羅の国になってしまう。


「ハナがここで、この女を殺しても皆んな同情してくれると思うよ。でも、ハナはその手段を選ばなかった。俺はそんなハナを誇りに思う」


 ヴィムは腕の中で涙を流すハナを優しく抱きしめ続けた。


「落ち着いたか?」


 しばらくして、ハナは泣き止んだ。


「すみません。泣いたりしてしまって。ヴィムさんの大切なお洋服も汚してしまいました……」

「気にしなくていい。泣きたい時は好きなだけ泣いたらいい。ハナの涙に比べたら、服なんて安いもんだよ」


 ヴィムは柔和な微笑みを浮かべた。


「ありがとう、ございます」

「おう、俺は絶対にハナの事を見捨てたりしない。地獄の果てだろうが付き合ってやるよ」


 そう言って、ハナの頭をポンポンする。


「よかったですね、ハナさん!」

「マスターはかっこいいな!」


 ミサとディアナも優しい笑みを浮かべて、ハナの事を受け入れてくれた。


「よし、帰るか」

「ですね」


 来た時と同様にして、空間魔法で王都へと戻る。

捕らえた組織の連中は王国の騎士団に突き出しておいた。


 明日辺りに陛下からお呼び出しがあるだろう。

そんな事を思いながら、自分の屋敷へと戻るのであった。

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