第38話 謎の男たち
ヴィムたちが乗っている馬車が急停車した。
ロルフさんが何も言わずに止まるということは何かあったに違いない。
「どうしました?」
「道が塞がれています」
ヴィムが馬車の窓から顔を出すと数人の男が道の中央に立っていた。
「めんどくせぇな」
そんな思いを口に出しながらもヴィム馬車から降りた。
ハナもヴィムに続くように馬車から降りる。
「そんな所に突っ立っているとか暇なのか?」
ドスの効かせた声でヴィムは放った。
「おかしいですね。ここには人払いの結界を張っていたはずなのに」
先頭に立っていたそれなりの身なりをした男が縁なしの眼鏡を中指で上げながら言った。
「残念だがこんな子供の遊びみたいな結界じゃ何の役にも立たないぞ」
ヴィムは懐からSランクを示すギルドカードを提示した。
「ほう、あなたが最近噂になっている深淵の魔術師さんでしたか」
人払いの結界は言ってみればただの精神干渉系の魔法に過ぎない。
相手の精神に干渉して、ある一定の場所から人を遠ざけるのである。
よって、精神干渉魔法に耐性のある人間は人払いの結界の影響を受けないのだ。
ヴィムの場合、精神干渉系統の魔法をジャミングするスキルを持っている。
その効果がハナやロルフにも伝わって、この馬車が人払いの結界の影響を受けなかったのである。
「あいにく、こんなところで人払いしなきゃいけない事をやっている方々に言いいたいんだけど、そこどいてくれないかな? 王都に帰りたいんだけど」
こんな道の真ん中で人払いの結界を張るんだから何かしらの理由があるはずだ。
「そうもいかないんですよ。私たちを見られてしまったからにはあなた方の記憶を飛ばすくらいのことをしないと」
戦闘に立っている身なりの男は言った。
「俺たちとやりたいっていうのか?」
「Sランクの方とはやり合いたいわけじゃないんですけどね」
現実的に考えたら、人数では負けていてお戦力とては圧倒的にこちらが勝っている。
「俺もそっちの方をお勧めするけどね」
その時、ヴィムの後頭部に向かって矢が飛んできた。
それをヴィムは右手で掴むと、正面の男にぶん投げた。
「奇襲ってのは卑怯じゃない?」
ヴィムは黒い笑みを受けべていた。
ぶん投げた矢は男の左肩の部分に突き刺さっていた。
「ハナ、後ろのやつを頼む」
「分かりました」
後ろの敵ハナに任せると、ヴィムは正面の敵に集中した。
奴らが何者かは分からないが、こちらに刃を向けてくるというなら、それに応えてやるまでだ。
「お前ら、やりなさい」
肩に矢が刺さったまま、男は部下に命令した。
命令された男たちは剣やナイフを抜いてこちらに向かってくる。
「おっそ」
こんなの魔法を使う方が魔法に失礼である。
ヴィムはナイフを半歩移動するだけで躱すと、鳩尾に膝蹴りを入れた。
「カッ……」
肺の空気が口から漏れる。
そのまま、男は地面に倒れ込むと再び起き上がることはなかった。
「て、テメェ、魔術師じゃないのかよ!!」
「正真正銘の魔術師だぜ」
ヴィムはローブをはためかせて見せた。
これがヴィムの魔術師感を演出している。
「舐めるなぁ!」
もう一人の男が剣を振りかざす。
「そんなに大きく構えちゃだめだって」
ヴィムはそう言うと、手首の位置を掴んでそのまま投げ飛ばした。
男は思いっきり硬い地面に叩きつけられる。
受け身もろくに取れていなかったので、その衝撃を全身で食らって気絶していた。
「情けない……」
ヴィムは倒れた男たちを見て口にした。
そう、ヴィムは体術にも優れているのである。
まあ、優れているとは言っても普通の人より少しできる程度だ。
魔術が使えない時にも対処できるようにレオリアに来てから身につけた。
ヴィムは習得が早いので、あっという間に上達して自分のものにした。
「魔術師のくせに肉弾戦を挑むやつなんて聞いたことねぇぞ!」
「魔術師が体術を使ってはいけな言って法律でもあんのかよ。魔法で倒されたいなら魔法で倒してやってもいいぞ」
『サンダーボール』
そう言うと、電気でできたボールが3個男に向かって行った。
それをもろに喰らうと、痺れた男はその場に倒れ込んだ。
「あーあ、残念だったね」
これで、ヴィムと対峙しているのは肩に矢を突き刺した男のみとなった。
「ヴィム様、終わりました」
その時、ハナが剣を納刀しながらもどて来た。
「早かったな。お疲れさん。何人だった?」
「二人です」
ハナは二人の敵を始末して来たという。
さすがはヴィムの相棒であると言えるだろう。
「さて、どうする? お仲間はもう居ないみたいだぞ」
「クソが!!!!」
そういうと、男は懐から煙玉を取り出すと、地面に叩きつけた。
ヴィムが風魔法でその煙を取り除いたとき、その男の姿はなかった。
「逃げたか」
正確には索敵魔法で男を捕らえていたのだが、わざわざ追いかけてやるほどの義理はない。
ヴィムは人払いの結界を取っ払うと、馬車に戻った。
男たちはしばり上げておいたので、そのうち衛兵が来て連行してくれることだろう。
「お待たせしました。先を急ぎましょう」
ヴィムとハナは馬車に乗り込むと、ロルフに言った。
「かしこまりました。出発いたします」
馬車は再びゆっくりと動き出した。
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