第27話 何になりたいんだ 2

I want to be pilot. 小学生の甲高い声が教科書をなぞった。綺麗な発音だったのに男の子がどっと笑う。頭がいい人は、反論しない。何もせず笑っている彼がおかしいのだ。女子がパイロットになりたいとよんだからだろうか。深く考えずに笑ってそうな頭を教科書で殴りつけたい衝動をどうにか抑えることに成功したので人しれず少女はため息を吐いた。早く中学生にならないかな。学校がかわりクラスが6クラスになると離れる確率はぐんと上がる。算数はできなくてもそれくらいわかる。離れたい人は多いけれど離れたくない人は離れていくので現状プラマイゼロだ。勉強する人は馬鹿だとでも思っているんだろうか。おんなのくせに、とか。もっとましな人いないかな。そもそも席替えさえなければこんなこと起きないんだよな。音楽の時間も邪魔されるし。横からあーとか言ってきてこいつちっとも歌ってなかったんだよ。成績いちにしてやってください。いいんです、この人はあいつらと違って受験しませんから。

そういう問題じゃないのはわかってるんだけど。獣医さん、歯医者さんなどが教科書には可愛い挿絵とともにのっていた。全部興味ないんだけど。理系ばっかりだな。一瞥して佳乃はそう思った。ハイフレンズに不満たらたらだったから中学に上がってもそれは変わらず今度は三省堂の教科書に不満を持った。She is a table tennis player.を読まされた佳乃は気に入らなかったので教科書を全然見なくなった。メイリンの髪型もクミとそっくりだし。後にメイリンの髪の毛は長くなり一抹の寂しさを覚えることになった。仲良しっぽくて中二で百合のようなものに目覚めた佳乃はやっぱいいかもと思い始めていたのだ。そっか別れたんだ。と妄想できるほどだからおもしろいものである。何になりたいんだ問題は高校に入っても怒涛の嵐だった。押し売りみたいにプリントによって問いかけられる進路に未定と書き込むたびいらいらが募っていった。恋愛感情と反比例するようでまるで似ていないのに近かった。私は彼女とどういう関係になりたいんだろう。しょっちゅう喧嘩するような仲なのか。恋に落ちるような音をきく機会なんて一度きりでいい。そんな惚れっぽくないはずだ。なのに何で手がとどきそうだと思ってしまったんだろう。彼女の眼を見ると全部正直に話してしまいそうになって困る。よくないことだ。彼女を見たって自分の心しか見えないはずだ。すきなのは彼女を好きな私じしんのこころなのかも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る