08
朝になった。
「と! いうことで今日はいよいよ最果ての国へ!……なのだけど、魔女ちゃん」
「何?」
「賢者君どしたのそれ。朝から爆睡とか珍しい」
美女に言われて振り返ると、賢者は立ったまま眠っていた。
昨日あんなに起こしてた影響だ。ごめん、賢者。
「賢者君起きて起きて! 先に二人で最果ての国行っちゃうよ!」
美女が肩を揺すると賢者は目を覚ました。
「どっちにしても俺は置いてくのかよ」
猫だ。そういえば昨日の夜、つい動揺して解毒魔法をかけずに帰ってしまった。ちゃんと解毒したらしいけど一体どんな毒飲まされたらあんなことに……。
最果ての国はその名の通り、中央国を中心とした時の地図の最果てにある国だ。
昨夜も聞いたけど科学技術が高いことで有名で、最近の化学兵器なども作れてしまうことから他の国々に若干恐れられているとか。もちろん賢者情報。
そして魔王城に一番近い国。壊滅しないのは科学力のおかげなのだろう。
「最新の科学武器とかあるのかな。私使ってみたい!」
美女はこの説明でもポジティブ思考だ。
でも美女に最新の科学武器って……もう誰にも止められなくなるからやめた方が良いのでは。いや今も十分無理だった。
「最新の科学にはそれに伴う知識と技術力が必要になります。美女さんの場合はやめた方が良いと思います」
「え、賢者君なにそれ論理脳なのか悪意なのか分からなくて怖い」
あと賢者相変わらずだな。多分悪意は無いんだろうけど。
「あっ、二人とも見て! あそこで何かやってる、お祭りかな」
突然美女が後ろを指さした。
振り返ると黒い服を着た人々が黙々と何かを運んでいる。……え、あれって
「祭りではなく葬式ですね」
「だ、だよね」
びっくりした。一瞬この国の祭りはこうなのかと思ってしまったよ。
「葬式かあ。誰のだろう、行ってみる?」
美女が走り出した……って何故行くんだ。美女の故郷ってやっぱり想像もつかないような文化の場所なのかと本気で思えてきた。龍食べてたし。
「行ってみましょう」
そして賢者も行くんかい。え、もしかしてこれ普通のことなのか。私が世間知らずなだけなのかな。この二人といると常識が分からなくなる。
「……あ、あれ。あの子って昨日の……」
葬式会場の真ん中で棺桶に縋りつく白いフードの少女。
もしかしてこの葬式って、彼女が探してた男の子の……?
「あの絵、百年前の龍退治の絵ですね」
賢者が飾られている絵を見て呟いた。
黒いリボンのつけられた額縁に飾られた絵に描かれているのは、大剣を持った少年と昨日倒した赤い龍。少年はパーマのかかった金髪にエルフ特有の尖った耳をしている。
……あれ、まさか探してた男の子って、伝説の旅人?
で、これはその人の葬式……?
「すみません、これってどなたの葬式でしょうか」
絵を眺めているおばあさんに聞いてみた。
「ああ、異国の方ですか。これはこの国の龍を倒した伝説の旅人様の葬式ですよ」
やっぱりそうだ。おばあさんは山を見上げて不思議そうに首を傾げた。
「何故かこないだ龍が復活しましてね、再び倒しに行った旅人様が帰ってこないものですから、龍が居なくなったのをきっかけに探しに行ったら……ねえ」
龍が居なくなった、というのは昨日私たち……正確には美女が一人で倒したからだろう。そんな前に山へ行って、見つけ出されたのは昨日か今日だったのか。棺桶の蓋は締まっているけど、きっとあの熱さじゃほとんど骨になっていたに違いない。
美女は珍しくまじめな表情で絵を凝視している。
「ねえ魔女ちゃん。この絵の子、髪の毛だけ見るとあの女の子そっくりだよね」
「え? あ……本当だ、言われてみると確かに……」
パーマがかかったくるくるの金髪。あの少女は髪が短めだから、あと少し短ければこの少年と全く同じ髪になる。
「それ、私の兄」
あ、なるほど。じゃあ少女もフードで耳が見えないだけで実はエルフ……
横を見ると白いフードの少女が立っていた。目は泣きはらして赤くなっている。
「あ……えっと、この度はご愁傷さまです」
「堅い挨拶はいらない。私も……兄さんも堅いのは嫌い」
少女は言い終えてからフードで目を拭いた。まだ完全に泣き止んではいないらしい。
そういえばつい少女と呼び続けてるけど、百年近く生きてるなら私より遥かに年上なのか。じゃあやっぱり彼女が強いのは長い努力の成果なのかもしれない。
「ところで旅人ということはここの人じゃないんだよね。エルフちゃんってどこの国の人?」
美女は既に堅いとは程遠い所にいる。エルフちゃんってそんなモロなあだ名を。
「最果ての国……今帰るところ」
「えっ!? 奇遇だね、それなら魔女ちゃんの転移魔法で一緒に帰る?」
そんな勝手な。転移魔法は転移対象が増えると魔力消費量もガクンと増える……まあ最近使い慣れて減ってきてるから問題は無いけど。
「いいの?……じゃあ、お言葉に甘える」
少女は頷いた。金髪が揺れて毎度かわいい。
「よし決定! で、魔女ちゃんは大丈夫?」
「今確認は遅いって。でも問題は特にないよ」
「ん。なら賢者君と猫呼んできて…………あっ、何か向こうからも黒い人たちが来てる! 何々、今度こそお祭りかな」
美女が横を向いて声を上げた。まさかダブル葬式?
いや、にしてはそっちの人たちはテンションが高いように見える……
……テンション高いというか、あれ、危ないやつだ。
「全員どけどけーっ! 邪魔したらこの銃をぶっ放すぞ!」
黒服の集団の一人が銃を手に叫んだ。
葬式会場は一瞬で沈黙から裏返したような大騒ぎになった。
「最近この辺りで商売の邪魔をする女がいると聞いてみれば……ほう、まだ子供か」
黒服の体格のでかい男は少女の方をジロジロと眺めている。
ま……まさかこの集団の狙いはこの子? え、こんな小さな子をあんな大勢で?
「ありゃあ……卑怯というか数の暴力だね」
「この場合数の暴力という表現はあまりそぐわないと思います」
「二人とも、そんなこと言ってる場合じゃないと思う」
こんなことを言っている間にも黒服は少女を取り囲んでいく。
「わ、私助けに入るっ」
このまま見てるだけでなんていられない。いくら彼女が強いと言ったって危険だ。
「あ、ちょ、魔女ちゃん!? 拳銃相手にそれは危な」
突如、騒然とする葬式会場に二発の銃声が響いた。
「……え」
少女は胸からどくどくと血を流しながら倒れた。
あと、目に何か垂れてきて凄い染みる。
「か、かいふくまほう……」
声がおかしい。ていうかほとんど出てない。
早く彼女に回復魔法をかけないと。あの出血量じゃすぐに出血過多に…………
…………いや、それは私もだ。頭を撃たれている。
ん……? 待った。それなら私何でこんな冷静に
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