12

「お前ら急にどっか行くなよ!……ん、魔女どしたんだ? なんか目が充血して……」

 死霊騎士の所へ向かうと、猫は全投げされたことを怒っていた。

 ていうか私の目充血してるって、まさかさっき泣いてたんじゃ。うわこんな年にもなって恥ずかしい。

「二十代後半なんてまだまだ若いもんよ。私なんて今何千歳やら……」

「美女そんな歳行ってたの。ていうか今のは絶対私の心読んだよね」

 美女はてへぺろをした。あだ名通りの美女だから同い年くらいの見た目でも絵になってるのが羨ましい。

「そんなことしてる場合じゃねえだろ! お前らがどっか行ってる間に……ほらあれ見てみろ」

 猫はあの黒いビームを放ちながら顎を上に向けた。猫って魔力切れ起こすことあるのだろうか。……あ、でもなんかこれ口に出したら賢者の研究課題の一つになりそうだからやめとこう。


 上を見上げるとそこには予想通り死霊騎士がいた。死霊騎士の足元に立っているからそれは当然のことだ。

 ただ、どうも色がさっきと違うように見える。さっきは黒かったのが白くなってる。死霊騎士というより白カビ生えたみたいになっている。

「あれ、私さっきの火で目をやったのかな……」

「違います。あれは第二形態です」

 賢者は全く動揺した様子も見せずに呟いた。何それ、第二形態とか無敵じゃん。

「成程ゲームとかに出てくるあれだね。魔王とか魔人とかが一定ダメージ与えるとパワーアップするやつ。体力ギリ貧の時に来ると地味にショックだよねあれ」

 美女は何の話をしてるんだろう。魔王は分かるとして魔人って何……? 

「大体は美女さんの言う通りです。魔王に第二形態があるかは定かではないですが……でもこの状態になると言うことは体力は半分、又はそれ以上削られているということです」

「えっ、猫そんなに戦ってたの」

「当たり前だろ! あいつ逃したら俺は全魔物軍に命狙われること確定なんだぞ」

 そういえば猫は魔物だった。つまり猫と死霊騎士は同士討ちしているということだ。

「そんな事より一刻も早く倒した方が良いです。このままだと町が壊滅する恐れがあります」

「そんな事って賢者……。ならまずさっきみたいに毒で動きを封じてからの方が良いかもしれない……」

「あ、ハイハイ! じゃあ私は目を潰しに行ってくるよ、物理攻撃なら任せて!」

 物理攻撃で目つぶしするのか。美女勇気あるなあ……。



 作戦はこうだ。

 まず賢者が死霊騎士に毒を飲ませて動きを封じる。混乱に乗じて美女が目を潰しにかかるから、その後は全員でとにかく攻撃する。以上。

 なんか後半行き当たりばったり感が否めない作戦だと思うけど。そもそもこれは作戦と言えるのだろうか。


「毒魔法!」

 始まった。賢者は死霊騎士の目の前に飛び出して行って杖の先を敵の口に向けた。何度見てもまずそうな毒液が勢いよく噴き出して死霊騎士の口に飛び込んだ。

「入った、美女向かって」

「ラジャ! 足元の攻撃は任せたよ魔女ちゃんっ」

 美女は軽々と建物の屋根まで上るとそこからジャンプして死霊騎士の目の前まであっという間に来てしまった。拳を構える。よし、前半は成功

「ふっ、効かぬわ。死体であるこの吾輩に毒を飲ませるなど。笑止千万片腹痛し」

 え、今の誰? 

「死体? 死体ねえ…………なるほど、今の死霊騎士君か!」

 美女が空中で手の平と拳を叩き合わせた。そのリアクションは古くない……? 

「って、え。死霊騎士!? まさか賢者の毒が効かないなんて……」

「逆に何で第一形態は毒が効くのか謎だよな」

 猫は冷静に頷いている。

「むしろ美味にすら感じるぞ。まるで三十年物の赤ワインのような舌ざわり」

「えっマジ!? ちょっと一口頂戴」

 待って美女それアンデット系の味覚だから。多分普通に飲んだら麻痺する。

「あ、では狙うので口を開けてください。毒魔法!」

 賢者も何言ってんの。すっかり忘れてたけど賢者、今判断力がヤバイことになってるんだった。

「うーん……これは! 想像以上にマズ」

 言い終わる前に美女は倒れた。

「戦闘中にボケんな! おい魔女、確か解毒魔法使えたよな」

「あ、そうだった。解毒魔法っ!」

 猫の鋭いツッコミ。心なしか死霊騎士も呆れた顔をしているように思える。鎧で顔見えないけど。


 しかし勿論こんな場合も想定内だ。賢者の。

 毒が効かなかった場合の作戦B。

 わき目もふらずにとにかく攻撃あるのみ。

 て、これも作戦じゃなくない? 最早これってただの突撃……。

「作戦B決行です! 美女さんは頭部、魔女さんは足を破壊してください!」

 賢者はそう言うとすぐに火炎魔法を唱えた。私のと比べ物にならない威力で訓練で磨いた自信が崩されていく。

「賢者は腕……ってこれ俺は胴体係か?」

「すべては猫ちゃんの腕にかかってる! がんばれ猫ちゃんっ!」

 美女は空を舞いつつ死霊騎士の顔面に拳を入れた。

「小癪な真似を、人間の拳程度で吾輩の顔に傷など…………ん?」

 白い死霊騎士は顔に手を当てた。顔を覆っていた鎧の兜にヒビが入っている。そうだ、美女は人間じゃなかったんだっけ。だからあんなパワーが……。

「やったぜ命中!」

「ポーズ決めてる場合じゃねえよ! あいつは鎧壊されたら……」

 猫が声を上げた。

「人間如きが……いや人外でも同じこと。吾輩の鎧に傷をつけるなど出過ぎた真似、この町ごとまとめて成敗してくれる!」

「ええ……それ騎士のすることじゃない……」

 思わずシンプルな感想が出た。

「黙れ小娘! お前に魔物の気持ちなど分かるものか、吾輩の騎士道とはそういうものだ!」

 鎧の下の顔は普通のゾンビと大差ないものだった。何という傍若無人な騎士道。けど、これは少し困ったことになったかもしれない。

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