第4話
帰還後初めての登校日…俺は幼馴染である三人と共に、駅から学校の方へとほんの少しだけ下を向いて歩いていた。出来るだけ、何かを感じぬように。
…あちらの世界へ行って、返って、こちらでは数時間しか経っていなかったが俺達は数年間どんなに願っても見ることの出来なかったこの世界の何もかもが懐かしく感じ、それと同時に失ったものの大きさで夢なのだと錯覚してしまう。
それは三人も同じなのか、皆少し力の抜けた平坦なトーンで話している。
「なんかさ…やっぱり、“本当に元の帰ってきたんだ!!”って感じがあまりしないよね」
「うん、まぁ…」
「この間もキマイラが現れたしね…」
「だね。だけど…帰ってきたのは本当だ」
「「「・・・」」」
しばらくの間、周りの登校している別生徒の声だけが四人の周りには聞こえない。…本来あるべきはずのものいうことはがないということは、こういうことなのか。でも…
「…正直、これが夢だろうが何だろうが、俺達はこの世界で生きるか、死ぬかだ。だから俺は“あちらの世界の勇者”であり、“こちらの世界の高校生”として生き続ける。それに…」
「それに…?」
「死んだ三人や、あちらで“友”となった生物達と約束したんだ。“いつかどこかで会うその日まで、いろんな話を出来るようないい思い出を作る”って」
「俺もしたな…」
「私達も…」
そう呟く彼らの目からは涙がこぼれ落ちそうになるが、俺はすぐに三人の目から涙を拭きとって、ニコリと微笑みかける。
「泣いちゃだめだ。最初の方の思い出が悲しいものじゃ、連鎖してっちゃうぞ」
そうやっていう自分も泣きそうなのに。
「…よし、ありがとう銀河。俺、あいつらに話したい事、いっぱいになるように思い出作るわ」
「私もっ…!智樹や桜木さん…響ちゃんに元気だったって話し…たい!」
「以下同文過ぎる」
三人は顔を見合わせて、何かを決心したのか、拳を前に突きだす。それを不思議そうに見ていると、「ほら、手出して」と言って俺の手首を引っ張って、手のひらを握り拳にさせられて上から見ると四角形になるように手の位置を合わせられる。
「いくぞ~!…えいえいおー!!」
「「えいえいおー!!」」
「え、えいえいお~…」
突如大きな声を出したことで、周囲の目がこちらへと向き、俺は恥ずかしくなる。三人は何ともなさそうだが…それに、本当は今のに俺は参加しては…。そんなことを考えていると肩をトントンとされ、振り向いてみると俺の頬に指が当たる。
「おはーっす!銀君、恭君、昌子、木葉」
「んっ!?…って、おはよう沙希…」
そう返すと「ニヒヒー♪」と笑顔を向ける黒に赤いインナーカラー髪色の可愛らしい顔立ちをした少女・
「沙希さーん、俺を置いていかないで~」
そう言って少しゆっくりと歩いてきた眠そうな彼・
「おはよう甚太。昨日のアニメ見た?」
「いやー…ここ最近は見たいやつ溜まっちゃってるんだよねー…」
「俺も睡眠時間の調整ミスって見忘れてるやつあるんだよな~」
(本当は全部が何季か前のも見返しているんだよなぁ…)
甚太は顔立ちやスタイルでいえば世間一般的に“イケメン”と言われる部類の人間であるが…かなりヘビーなオタクである。現在の世間のオタク文化に対する印象や彼の持つ良さが相まって、学校での敵は少ないが、彼自身が敵と認識する者はまあまあ多い。なので一年生の夏頃までは俺以外に友達は殆どいなかったのだが…彼女が現れてからはかなり友人が増えた。まぁヘビーなのは変わらないし、その辺を思い出すと長いから思い出すのはやめておこう。
そんなことを考えていると、二人がキョロキョロと俺達の周りを見渡す。それを不思議に思った昌子が二人に聞いた。
「…?二人ともどうかした?」
「いや、桜木さんと智樹は遅刻なのかな~って」
「私も。ちょっと前に響と出かける約束していたから日時に関して連絡したけど返事も帰ってこなかったし、それについて知りたかったんだけど」
「「「「…」」」
「ど、どうしたのみんな…!?」
俺は一度息を吞んで、二人に言葉を発する。
「二人は…うちの方で行方不明者が出たって…知ってる?」
「え?…まあ、うん。知ってるけど…え?」
「それ…」
「…嘘」
「二人の…ことなんだ…!」
「あ…あ、あう」
「…!?まずい!!」
そう叫んだ甚太は何かしそうになっている沙希をすぐに抑え込み何かの瓶を鼻のあたりに置く。すると沙希はゆっくりと目を閉じてズルッと崩れ落ちた。周りの生徒たちが騒いでいる中、自分と沙希の荷物を地面に置いて、沙希本人をおぶった甚大に俺は話しかける。
「大丈夫か!?」
「…あぁ、うん。俺が沙希さんを眠らせただけだから心配しないで。あと、すまないけどそこの荷物を運んでおいて」
「あ、うん…わかった」
「それと…しばらくの間、彼女にはさっきの発言は夢だと思わせてほしい」
「あっ…」
そう言い残して、甚太は保健室のある学校の敷地内へと沙希と共に走り去っていった。
「…何も知らない人達は、どのくらい心が痛いんだろうね」
そうポツりと昌子が呟く。なぜ死んだのか知っている者の辛さは分かるが、知らない者の辛さは分かりたいが分かれない。けど、それを俺達が…いや、俺が知る権利はあるのだろうか。
「とりあえずさっさと学校に入るぞ」
「あ、ちょっと…!」
地面に放置された二人の荷物を持ち上げて歩き出す恭介とそれに付いていく木葉。そんな二人を見て、また俺と昌子も歩き出す。
教室へ向かって廊下を歩いていると、数人の友人達に挨拶されるが、俺は空返事で対応する。それは他の四人も同じだった。こんなでこの世界で生きていけるのか俺達…そんなことを思って溜め息を吐いていると、教室の方から誰かが言い争っている声が聞こえた。
「お前のっ…せいでっ…!」
「なな、何でお前怒ってんだよ…!!」
教室に着くと、そこには……俺が、いやきっとここにいるクラスのメンバー皆が憎んでいる者である一人の男と、廊下側の教室の前の隅でソイツの胸倉を掴んでいる井上…そしてそれを囲んで光の宿っていない目で見ているクラスメイト達の姿があった。
胸倉を掴まれているソイツは井上の手を振り払い、周りの目から逃げるように廊下へ出てきてこう言った。
「ていうか、お前らも何で止めてくれねぇんだよ!?」
「「「・・・」」」
彼の問いに対して、誰もうんともすんとも答えない。この時俺は思った。
“あぁ…こいつは自分の犯した罪を、ただの夢だと思っているんだろうな”
俺はソイツを少しの間見つめて、何もせずに教室へと入ると、それを見て、恭介達も「おはよう」と言いながら教室へ入ってくる。クラスメイト達は恭介達の方を向くと、その目に光を宿しいつものように挨拶を返していく。
その様子を見てなのか、それとも俺達も自分を助けなかったからなのか、顔を火山のマグマのように顔を真っ赤に、いつもより顔を不細工にしてこちらに叫び、問い掛けてくる。
「なんでっ…お前も助けてすぐにくれないんだよぉ!?」
「…すぐに分かるぞ」
俺はそれだけ言って魔法でソイツを眠らせた―
―やぁ!銀河達の世界線で考えると、三日ぶりの登場だね。とりあえず今回は、勇者・天ヶ崎 銀河に焦点は当てずに、イレギュラーなもう一人の主人公と言える彼…魔王を倒した英雄である少年の方に注目してみようか。
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