修行!


第二章 オレオレ詐欺を装備しました


しばらくの月日が流れた。今、私はジャックと共に、先生のもとで強くなるために修行をしている。朝から晩までみっちり修行だ。朝早く起きて、しっかりご飯を食べて、休憩を挟みつつ、戦闘の知識を頭に刻み込む。それが終わると、模擬戦だ。毎日、毎日、同じことを繰り返した。体が軋み、痛み、骨が泣いている。覚えても覚えても忘れていく知識を何度も詰め込み直し、やってもやっても失敗する技術をまたやり直す。修行は困難と熾烈を極めた。途中で何人も何人もやめていった。


普通の人が泣き叫ぶ地獄のような修行は、私にとっては、対して苦痛でもなかった。ホームレス生活の千倍簡単だ。失敗しても死なないし、何度でも成功数までやり直せる。こんなに楽なことは私の人生で初めてだった。


「今日は防具について教える」

そういうと先生は、私を防具屋に連れていってくれた。他の生徒はもうすでに防具を持っているから私だけの個人授業だ。店の中に入ると、所狭しと厳しい防具が顔を並べていた。巨大な防具の密林の中で私は迷子になりそうになった。


「ほらっ! 持ってみろ」

先生は私にアーマーのコテを投げてよこした。私はそれを両手で受け止めると、すぐに地面に落とした。鈍い重低音と共に、床にぶつかった。

「先生。私こんな重いものを装備できないわ」

「ああ。わかっている。お前はそんなの装備できない」

「ならどうして?」

先生の意図がわからずに、見えない疑問符を頭の中に描いた。

「お前が装備しなくても敵が使ってくる」

そういうと、先生はそのアーマーを一式装備した。


「いいか? お前の筋力と身長だとこのアーマーを突き破って攻撃を加えることはできない。愛、お前の強みはなんだと思う?」

「私の強み? なんでも食べられること?」

ホームレスの強みはその雑食性と、耐え難い苦痛に慣れていることだ。

「それもあるが、お前の強みはその体格だ。アーマーを装備している敵の想定敵は同じようにアーマーを装備している敵か、大男だ。だから、それを考慮して、甲殻の隙間は斜め下や側面を向いている」

「そこを小さい体の私が狙うのね?」

「その通りだ。さらにフルフェイスのアーマーを装備している場合は、愛の体はほとんど視界に入らない」

先生がアーマーの隙間からこちらを探す。


「ん? どこにいった?」

先生が重たいアーマーを煩わしそうに動かしながら、私を探す。キョロキョロとアーマーの頭部が周囲を探る。そして、左に顔を傾けたところでその動きを止めた。

「そう。そうやって戦うんだ」

私は地面に落ちていた棒切れを、先生の首元に突き立てていた、もちろん怪我をしないように。

私は棒切れをゆっくりと引き抜いた。

「先生の視界に入らないように気をつけながら背後を取って、棒をアーマーの隙間に刺したわ!」

先生はアーマーを脱ぐと私の頭に手を乗せた。


「よくやったじゃないか!」

そして、私の頭を力強く撫で回してくれた。こんなことを人にされたのは生まれて初めてだった。私の人生の一ページが次々と更新されていく。まるで、絶望の人生を歩んでいた人形が、必死で残りの人生を穴埋めしようとしているみたいだった。


その後、防具屋にある全部のタイプのアーマーの頭部を実際にかぶってみて、視界の大きさ、角度、首をどれくらい回せるか、アーマーの首の隙間、などを確認した。


全てのアーマーを先生は実際に着て、私はそれを相手にひたすら模擬戦闘した。相手の身長、体格、目線の高さ、アーマーの種類、持っている武器、全てが情報となり、私を有利にする。有利になった私が導かれるのは、冷たい敗北なんかじゃない。

「そろそろいいだろ」

「ええ。帰りましょうか」

「あ。そうだ。ちょっと目をつぶっていて」

「え? なんで?」

そして、私は目を強くつぶった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る