5章 とある女神サマ、夏休みを堪能(上旬)

夏休み開始

【それじゃあ、明日は朝9時に駅前集合な!】


 義秋のメッセージは、予想通り顔文字やスタンプが多く使われている。


【わかった、9時ね】


 香夏子のメッセージは、絵文字やスタンプはほとんど使われていない。


【は~い】


 星木さんのメッセージは、言葉少なめで謎スタンプが多く使われている。


【楽しみ~!】


 神野さんのメッセージは、義秋同様に顔文字やスタンプが多く使われている。


「9時か」


 夏休みに入り、予定の一つだった映画の事をグループ内メッセージでやり取りをしている。

 普段はこういったグループでのやり取りはしないから、何故かちょっと緊張する。


「……了解っと」


 これでよし、後はおやすみのスタンプでも送っておくか。

 にしても、メッセージでは神野さんと香夏子は文章の感じが全然違うだな。

 義秋と星木さんは、そのままのキャラがメッセージの文章にも出ているが、神野さんと香夏子は最初の時は中身が逆じゃないのかと思ってしまった。

 そういったところを初めて見れたし、グループとはいえ神野さんとメッセージのやり取りも出来ている。


「ふふふ……」


 ああ、なんか色々と嬉しくて自然と顔が緩んできてしまうな。


『ちょっと、何スマホを見ながらニヤニヤにして変な笑いを出しているのよ……流石に、見ていて気持ちわるいわよ』


「うっさいよ」


 神野さんの顔で気持ち悪いって言わないでくれよ、へこんでしまうだろ。

 それにこれは自然とそうなっちゃうんだから、どうしようもないじゃないか。


『というか、まだグループでしかやり取りをしていないの? せっかくあの娘のID手に入れたんだから、いい加減2人でやり取りをしなさいよ』


 うぐっ。


「…………それが出来たら、苦労はしないよ」


 その一歩が踏み出せない。

 一応猫カフェという話題はあるんだが……。


『……はあ、ヘタレ』


「グフッ!!」


 だから、神野さんの顔でそんな事を言わないでくれよ!

 もう寝ないといけないのに、こんな落ち込んだ気持ちだと眠れる気がしない。



「ふあ……」


 案の定、寝付けなかった。

 これから映画だっていうのに大丈夫かな。

 まぁ寝坊してみんなを待たせるよりは……。


「おーい、春彦。こっちこっち」


 駅前で義秋が手を振って俺を呼んでいる。

 嘘だろ、まだ8時50分なのにもうあいつが居るだなんて。


「遅いよ~」


 香夏子もいるし。

 いや、その横に星木さんと神野さんもいるじゃないか!

 マジかよ、遅刻はしていないのに俺が一番最後って。


「あっ大丈夫だよ。みんな、さっき来たところだし」


 俺の顔を見て察してくれたのか、神野さんがフォローしてくれた。

 うう、その気遣いが嬉しいよ。

 にしても、白のワンピースを着た神野さんってマジで女神だ。

 俺の横でフワフワ浮いている奴も女神なんだが……なんかオーラが違う。

 神野さんの方は見ていて、心臓がドキドキしている。


「さて、全員集まったし行くとするか」



《ざわざわざわ》


 流石、話題の映画。

 座席がほぼ埋まっちゃっているよ。

 けど、そのおかげで奇跡が起きた。


「映画、楽しみだね」


「うっうん」


 俺の右隣りには神野さんが座っている。

 席替えでは隣になれなかったが、ここで来たか!


「ちょっと、春彦。そこにジュース置かれたら私のが置けないじゃないの!」


 まぁ左にはうるさい香夏子がいるけども……。

 別にジュースを置くのはどっちでもいいだろうが。

 けど、言ったら言ったでまたうるさいだけだしジュースの場所を変えよう。


 ――ビー


 おっ映画が始まるぞ。


「あっはじまるね」


「楽しみだわ~」


『さてさて、どんな内容なのか見定めてあげるわ』


 メイティーが腕を組んでスクリーンに釘付けになっている。

 うん、そのおかげで静かにしてくれそうなのは良い事だ。

 良い事なんだが、俺の目の前に居座らないでほしい。

 お前が邪魔で前が見えないんだよ……。




「ううっ……ひっく、グスン」


「香夏子ちゃん、大丈夫?」


 香夏子がずっと号泣している。

 映画の中盤から終わり、そして映画館の傍にあるカフェに入っても泣いたままだ。

 確かにいい映画だったが、ここまで泣く物でもなかったと思うんだがな。

 香夏子ってこんなに涙もろかったっけ?

 義秋がカフェに入って落ち着かせようと提案して入ったのはいいが……それが逆に、何事かと注目の目で見られているよ。


『あれしき物で泣くなんて、人の子は弱いわね~』


 と、言っているお前の目も真っ赤だし鼻声になっているんだがな。

 まぁこいつに対してはどうでもいいか、今は香夏子だ。


「おい、これどうするんだよ」


「うーん……どうしたものか」


 流石の義秋も困っている様子。

 俺もどうしたらいいのかわからない。


「仕方ないなぁ。ここはわたしにまかせてぇ」


 星木さんに何やら考えがあるらしい。

 ここは女性同士、任せた方が良さそうだ。


「カナカナ。今度の海の事だけどさぁ」


 ちょっ!

 この状況で海の話!?


「あっそうそう! 水着の事なんだけどさ、新しいの買おうと――」


 なんか、元気になったし!

 なんか納得いかないけど、まぁ泣いているよりはいいか。

 にしても、水着か……そうだよな、海に行くという事は当然神野さんの水着姿が……。


『……スケベ』


「――っ!!」


 メイティーに心を読まれた!?

 やめてくれ! 神野さんの顔でジト目はやめてくれ!

 スケベの言葉にその目は、昨日の夜よりきつい!!

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