メガネのコーラ割り
だが、今度は先ほどと違った感触が俺の脳内を色付けた。
液体となったちくわは音を立てて喉を滑っていく。
乾いた食道を潤わせながら落ちていく。
それはさっきと違って非常に味わい深い甘美なものだった。
俺は思ったことを素直に口に出した。
「美味しい」
「でしょ?」
「これもパワーワードのおかげか?」
「ええ。パワーワードを実際に言ったから、“ちくわを飲み物として飲む能力”が上昇したのよ」
だからアリシアは平気な顔をしながらちくわをがぶ飲みしたのか。頭がおかしいのかと思っていたが違ったのか!
いや、それもおかしいな。
アリシアは明らかに頭がおかしい。
おかしい上でちくわをがぶ飲みしたんだ。
ちくわは関係ない。アリシアが単品でおかしい。
「あなた今失礼なこと想像したでしょ? まあいいわ。あなたが来ている服をよくみてみて!」
俺はアリシアに用意してもらった服をまじまじとみた。
俺の両の目が俺の今来ている服の繊維を穴があくほど見つめた。
視線のナイフは鋭く服に突き刺さる。
そして、
「これ、綿棒でできているのか?」
「ええ」
アリシアは満足そうな顔を見せた。
この時不覚にも少しだけ可愛いと思ってしまった。少しだけ。
「俺、綿棒を着ているのか?」
俺の服は、よく見ると綿棒でできていた。
綿棒を細かく糸状にしてからそれで編まれているようだ。
元が綿棒だとは思えないほどの艶と色。
まるで妖艶な女性の色香をそのまま纏っているみたいだ。
「そうよ。私たちが最初に会った時に、私は綿棒を着ていたでしょ?
あの時のパワーワードによって私は“綿棒を服として使用する能力”が上昇したのよ!」
「やった! 俺今、綿棒を着ている!」
「そうよ!」
「それに、ちくわを飲んだ!」
「ええ!」
「なんだよ! 面白いじゃないか、この世界!」
俺は勢いよくテーブルから立ち上がると、アリシアの手を引いた。
「食事が来るまでもっと色々みて回ろうぜ!」
俺はアリシアを引きずり回しながらパワーワードを手当たりしだに見つけていった。
「おい!
カウンターに座っている髭面の男性が、なんとメガネをコーラで割って飲んでいたのだ。
メガネを強力なミキサーで細分して砂状にする。
そして、それにコーラを混ぜて、おまけに火をつけてから飲み干した!
『パワーワードを感知しました。ケンの能力が向上します』
「おっさん一口俺にもくれよ!」
「お! 坊主もパワーワード使いか! 若いのに精がでるな! 飲みな兄弟!」
と、ヒゲのおっさん。
「ありがとう兄弟!」
そういうと俺はメガネのコーラ割りを一気に飲み干した。
その味は今まで飲んだことのなる飲み物の中で一番不思議なものだった。
粒状に粉砕されたメガネが心地よくコーラに溶けている。
コーラの炭酸の気泡が弾けるごとにメガネがパチパチと音を立てて、俺の喉に心地いい刺激を与える。
メガネがコーラを、コーラがメガネを引き立たせている。
これはまるで、寿司につける醤油のようだ。
メガネとコーラでワンセット。
それ以上でも以下でもない。
もしかしたらメガネは本来これが本当の使い方なのかもしれない。
ヒゲのおっさんはアリシアの方を向いて、
「あれ? おいねーちゃん。あんたまさか」
ヒゲのおっさん、略して“ヒん”がアリシアに何かを言おうとしているがアリシアはそれを遮って、
「ほら! さっさと行くわよ!」
そして、嫌がる俺はアリシアに無理やり引っ張られてカウンターから離れた。
カウンターから離れると、
「なんなんだよ? もうちょっとメガネのコーラ割り飲ませろよ!」
「いやよー」
「ほら! 次はあっちだ!」
そして、今度は俺が嫌がるアリシアを引っ張って別のテーブルに行った。
「お兄さん。イヤホン片方借りてもいい?」
「お! 君もパワーワード稼ぎか? いいぜ! 聞いてみな!」
俺はお兄さんが聞いていた音楽プレーヤーから生えているイヤホンを片方かりた。すると、
「なんだこれ? 液体の音? それと、何かがにゅるにゅると絞り出されているような音が聞こえる」
イヤホンからは溶けた何かが生み出すような音と、半液体の何かが絞り出されるような音が聞こえた。
俺は、音楽プレーヤーの液晶画面を見た。そこには、イチゴ、チョコ、抹茶、バニラの順で並ぶ曲名リストがあった。
「わかった。お兄さん
『パワーワードを感知しました。ケンの能力が向上します』
「正解だ。アイスクリームから発生する音だけで作ったプレイリストを再生して聞いていたんだ。
よくわかったな!
これからはアイスクリームは君にとっては音楽だ!」
「アリシア! 俺アイスクリームを聞いちゃったよ!」
「よかったわね! そろそろ料理も来るだろうし、戻りましょう」
「やだ!」
「もう十分でしょ。ほら行くわよっ!」
そして、アリシアは嫌がる俺を無理やり引っ張ってアイスクリームのお兄さんから離れた。
「なんなんだよ? もうちょっとアイスクリームを聞かせろよ!」
「いやよー」
「ほら! 今度はあっちだ!」
そして、今度は俺が嫌がるアリシアを引っ張って別のテーブルに行った。
「おねーさん! もしかしたら、おねーさんが
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