自分も親になって親の気持ちが分かった

俺は、トーイを挟んでリーネと話をする。


「俺はな……リーネとトーイに幸せになってほしいんだ……ただそれだけなんだよ……でも、俺もそんなに立派な人間じゃないから、これからも何度もヘマをすると思う。リーネやトーイに怖い思いもさせるかもしれねえ。でも、ホントに怖がらせたいわけじゃないんだ……だから、もし、怖いと思ったら、嫌だと思ったら、正直に言ってくれ……どうすりゃいいのか一緒に考えていきたい……」


「トニーさん……私はトニーさんのことが好きです……すごく優しい人だと思います……時々怖いこともあるけど、叔父さんや叔母さんとは全然違います……私、トニーさんと出逢えてよかった……」


トーイを抱き締めながら笑顔でそう言ってくれるリーネだが、その言葉を鵜呑みにはしないでおこうと思う。何しろ彼女はまだ、俺に対して力で対抗もできないし、俺の協力がなきゃまともに生きていくこともできないだろう。対等じゃないんだ。一人で生きていくことはもちろんできないだろうから誰かに頼るとしても、よくて小間使い、ヘタすりゃ男の慰み物として生きていくしかねえだろうな。だから、他の男よりはマシそうな俺に気に入られようと必死になってる部分はあると思う。


子供のそういう依存心につけこんで言いなりにさせようなんてのは、大人として本当に情けないと今は感じる。そんなのは、


<敬おうって気になれる大人>


じゃねえだろ。自分の無能さもわきまえてねえ、ただのクズじゃねえか。少なくとも俺はそう思う。自分がそう思うなら、そんな大人にはならないように努力しろや。


子供の頃にバカにしてた大人になっちまうとか、それで『努力した』とかよく言えるよな。つくづく、


『自分も親になって親の気持ちが分かった』


とか言う奴は、自分も反発してた親と同じように手を抜きたい楽をしたいから、『親の気持ちが分かった』と、『自分も親と同じように手を抜きたい楽をしたい』ことの言い訳として言ってるだけだってのをすごく実感するんだよ。


何しろ俺自身がそうだったからな。


『自分が親に反発してたんなら、そんな親にならないように努力しろよ。その努力もしねえで、他人に『努力が足りない』とかホザいてんじゃねえ』


と、前世の俺自身に言ってやりたいよ。


前世の俺は、こうやって娘と話をする努力さえ怠ってた。なるほど仕事じゃ多少の結果も残せたかもしれねえが、こと、娘を育てることについちゃ何も努力なんかしてねえよ。


てめえじゃ大して努力もしねえで親や世の中の所為にしてた連中と同じなんだ。親としての前世の俺は。


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