だからどうした?
こうしてようやく<あたたかい風呂>に入れた俺は、
「ふう~……」
と溜め息を吐きながら空を見上げる。するとわずかに太陽の光が残っている空に星々が。
北の方を見ると、もう北斗七星も結構見えてきている。俺は星座には詳しくないから、北斗七星とオリオン座くらいしか見分けられない。
ただ、前にも言ったとおり、<オリオン座>のはずの星座には、左上の星が見えなかった。さすがにもう時期的にオリオン座そのものが見えなくなったが、何度も確かめたから間違いない。
だから俺はここを、<俺が前世で生きていた世界とは別のルートをたどってる平行世界>だと思ってる。思ってるが、
『だからどうした?』
って話でもある。
ここが並行世界だろうが未来世界だろうが異世界だろうが、現に俺は前の世界で八十歳で死んでここに生まれて二十年生きてきた。その事実は変わらねえ。アントニオ・アークとして生きてきた俺の人生は本物だ。作り話でも何でもねえんだよ。
そこで俺は、今、リーネとトーイを迎えて生きている。いきなり娘と息子ができてしまったのは驚きだが、不思議と嫌じゃない。リーネだけじゃなくてトーイのことももうすでに受け入れ始めてる。
それに……
それに、ここの連中にリーネを嫁にやるのは癪に障る。ここの男共は、いや、女も大体そうなんだが、お互いに相手を敬うことも労わることもロクにしやしねえ。マジで『そうしてきたからそうしてるだけ』って感じで打算だけで結婚して子供を生んでそして奴隷のようにこき使うんだ。自分らがそうやって親にこき使われたから自分も子供作って同じことをやりたいって思ってるだけなのが見え見えなんだよ。
<親の愛情>? そんな気の利いたものはここじゃロクに見た覚えがねえな。
だから、
『女なんてイチモツ突っ込んで中に出してガキこさえるための道具だろ』
くらいにしか思ってねえ奴らにリーネはやりたくねえんだよ。となると、俺がリーネを嫁に?とも考えられるが、どうにもそんな気分にゃなれねえ。俺自身、自分が完全にリーネを<娘>だと思ってるのが分かる。
となると、リーネはもう結婚させずに俺と一緒にずっと暮らすか? とも思ったりもしたんだが、そこにトーイが現れた。
なら、トーイを、リーネを大切にできる男に育て上げて、それでくっつけたらどうだ?
なんてことも頭をよぎる。
もっとも、二人がそれを望まなかったら無理にくっつけるつもりもねえけどな。俺がリーネを娘としか思えないのと同じで、こうやって一緒に暮らすとリーネとトーイもお互いを姉弟としか思えなくなるかもしれねえしなあ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます