お前の母親に呪い殺されても文句は言わん
こうして荷物の運び込みも終わると、俺は、そこでようやく改めて男の子の前に片膝を着いて視線を合わせ、
「もう一度言う。さっきは済まなかった。許してくれとは言わん。ただ、お前を害するつもりはない。それだけは、死んだお前の母親に誓う。もし俺がお前を殴るようなことがあれば、お前の母親に呪い殺されても文句は言わん」
俺は、ゆっくりと、言い含めるようにして男の子に言った。その上で、
「お前は、生きるんだ。母親の分までな……そのために俺達は住むところと食い物をお前に用意してやる。泣きたかったら泣け。甘えたかったら甘えろ。今のお前は、それをしていい……」
とも。
すると男の子は、
「トーイ……」
俯いたまま、小さくそう口にした。
「トーイ…お前の名前か……?」
問い掛けた俺に、男の子は、トーイは、震えながら頷いて、それからポロポロと涙をこぼし始めた。『泣きたかったら泣け』と俺が言ったとおりに、泣き始めた。
そうだよな。三歳くらいなら、もし母親から殴られたり怒鳴られたりしてようとも母親を慕ったりするらしいしな。そんな光景も、こっちに転生してからは散々見た。虐げられても小さな子供にとっちゃ親しか頼れる相手はいねえんだ……
俺がトーイにとってのそういう親になれるかどうかは分からない。だが、こうやって連れてきちまった以上は、俺に責任がある。自分で連れてきておいて、『知らない』とか『邪魔だ』とか、そりゃ甘えすぎだろう。
一方、さすがに今はまだ、トーイの方から抱きついてこない限りは、俺が抱きしめるようなこともしない方がいい気がする。まだまだ信頼なんかされてないはずだしな。リーネの時もそうだった。逢っていきなりは無理だ。当たり前の話だ。
信頼ってのは、築くのに時間がかかるんだ。
俺は、トーイが泣き止むまで、その場にいた。励ますことも、慰めようとすることもしない。ただ、トーイが自分で泣き止むまで待ったんだ。
するとそこに、
「夕食、できました……」
おずおずとリーネが声を掛けてきた。
「ありがとう」
俺はリーネに笑顔を向けて、それから、
「メシ、食うか……?」
少し落ち着き始めていたトーイに、穏やかに問い掛ける。そんな俺に、トーイも、ぐずっ! ずずっ! と鼻をすすりながら、
「……」
黙って頷いた。
それでいい。今はそれでいい。俺だって自分がこういう時に偉そうにされたり一方的に命令されたら、殺意を抱くだろう。殺意を抱くにはまだトーイは小さいかもしれないが、それはまだ小さいからってだけだしな。
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