当然の帰結

前世の俺は、


『他人がやってるんだから俺も当然やっていい!』


って考えてた。


『家族に対して横柄に接するのも、パワハラも。他人が普通にやってることを俺もやって何が悪いのか?』


ってな。


でも、今はこう思うんだ。


『やっていい悪いじゃなく、やったことが自分に返ってきた時にそれで納得できるのか?』


と。


前世の俺の最後は、自分がやったことが丸々返ってきただけだった。他人が悪いんじゃない。自分が原因なんだよ。誰からも信頼されない敬われない生き方をしてきたからそうなったっていう、<当然の帰結>なんだ。


ただ、


『トニーさんは、他の大人と全然違ってるから、どうしてなんだろうって思ってしまって……』


というリーネの疑問には、上手く答えられなかった。まさか前世の話をするわけにもいかないし。したとしても、


『この人、大丈夫かな?』


って思われかねないし。だから、


「俺が<変わり者>だってだけだろう。なんか、嫌なんだよ。他の大人と同じってのが」


などと、つい適当な返答をしてしまった。


「そうなんですか……?」


問い掛けられて、


「ああ、そういうことだ」


と応える。その上で、


「変かな……?」


問い返してしまう。すると彼女は、


「そんなことないです…! 変じゃないです……!」


俺を真っ直ぐに見ながら言ってくれた。まあ、彼女としてもそう思いたいんだろうな。自分を怒鳴らない殴らない俺の方が正しいんだって。


『…『正しい』…か。正しいってなんだろうな……』


前世の俺も、自分のやってることが正しいと思ってた。正しいのはいつだって俺で、間違ってるのは周りの奴らだと思ってた。なのに、結果としては、虚しさしかない、何一つ納得できない<人生の最後>だった。


正しいことをしてたのなら、なんでそうなる?


『正しいことをしてるのにこんな目に遭うとか、やっぱりこの世はクソだ!!』


ってか? 


本当にそうなのか? それでいいのか? 


電卓で、『1+1』と打ったら『3』が出たのを、


『なんだこの電卓、壊れてやがる』


で思考停止して、『1』を打ったつもりで『2』を押していた可能性を考えようともしなかったら、それは自分がおかしいんじゃないのか?


『自分が間違ってるかもしれない』


と考えるのは怖いかもしれない。いや、実際、前世の俺はそう考えるのを怖がってたんだろう。だとしたらそれは単に俺自身が臆病な腰抜けだったってだけだよな。


マシニングセンタが予定通りの動作をしなかった時、どうする? 設定を一から洗いなおすよな。で、判明した原因は、本当にくだらない単純な打ち間違いとかだったりする。


要するにそういうことだ。


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